日本マンガ業界の“敵”なのか? 韓国発「ウェブトゥーン」の衝撃波(4)

 いわゆるクールジャパンを代表するものに、マンガという文化/産業がある。だが、言うまでもなく、マンガが生みだされるのは日本だけではない。お隣の国・韓国には「ウェブトゥーン」というPCやスマホで縦スクロールして読むマンガの市場があり、2010年代にそこで大革命が起きた。そして、それは決して“他人事”ではなく、その衝撃波は確実に日本にも押し寄せているのだーー。マンガやネット文化に詳しく、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)の著書であるライター/編集者の飯田一史が、韓国発デジタルコミックの動向と日本への影響を4回にわって徹底分析!

有料販売モデルの導入とソフトエロ系コンテンツの投入

 日本ではあまり語られていない韓国デジタルコミック事業者について紹介していく本シリーズ。最終回となる今回は、韓国でウェブトゥーン有料化とソフトアダルト作品市場を切り開いたレジンエンターテインメントによるレジンコミックスなどを紹介した後、韓国勢と日本マンガアプリ界との関係についてまとめてみたい。

引用:レジンコミックスのアプリより。

 レジンは2013年6月に創業したベンチャー企業である。ちなみに、そもそも新興勢力であるレジンが、韓国でウェブトゥーン有料販売モデルを導入したことによって成功できた理由はなんだろうか? よく語られている理由をまとめてみると、以下などが挙げられる。

1)すでにウェブトゥーンに十分なユーザーと作家がおり、ゲームアプリが先んじてスマホアプリで課金することに人々を慣れさせていたところに、簡単な決済手段を導入したこと。
2)NAVERなど先行するウェブトゥーンサイトでは無料連載で広告収入のレベニューシェアだったところに、プラスして売上が立つのを示したことで作家が移籍、参入してきたこと。
3)それまでのウェブトゥーンではほとんどなかったソフトエロ系コンテンツを投入したこと(デイコ産業研究所『韓国コンテンツ産業動向2014-2015』ビスタピー・エス)
 
 ちなみに、ソフトアダルト系を扱っているため、「マンガアプリ」ではなくブラウザのほうがレジンの主戦場である――「少年ジャンプ+」(集英社)連載の『終末のハーレム』がエロ規制に引っかかってアプリでのモザイク処理がかなりなされたり、某企業に至ってはアカウント剥奪になったような、運営会社とアップルやグーグルとの争いがレジンにもあった。
 ただ、簡易な決済手段や有料販売、ソフトアダルトコンテンツの充実は競合他社も模倣するようになり(日本のcomico plusにもエロ系があるのは、そういうことだろう)、それらはそれほど競争優位性にならなくなった。
 筆者はレジンの日本でのマーケティングの責任者イ・スンハン氏にインタビューしたことがあるが、「レジンならではの特徴は?」との問いに対し、「編集者のコミット」を挙げていた――この点に関して、サービス開始当初はともかく現在の状況については一部の作家から異論もあるようだが、筆者には当否を判断しかねる。

多メディア展開できるIPとしての注目の高まり

 いずれにしても、レジンがウェブトゥーン有料化の先鞭を付け、ほかのサービスも追随した。そこに、ウェブトゥーン原作のテレビドラマや映画でヒットが出て、原作を“課金して読む”人たちが当たり前の存在になった。
もちろん、韓国でマンガが原作で映像化されて原作もヒットした例は70年代からあり、ウェブトゥーンに限っても、NAVERウェブトゥーンでは2000年代からそうした例があった。ただし、“ウェブトゥーンに課金して読む”ユーザーが激増したのは14年以降なのだ。
 さらに、NAVERウェブトゥーンのトップクリエイターが、日本で言えばHIKAKIN、はじめしゃちょークラスのYouTuberのような有名人になってメディアにも出るようになったことで、参入者が爆発的に増えた。
 そういうわけで韓国ウェブトゥーン市場は、作品の受け手も描き手も、IP(知的財産)が欲しい企業も過熱している(ウェブトゥーンの人気作品は、中国企業に中国での公衆送信権や映像化権を高額で売却されまくった――高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD」の在韓米軍への配備をめぐる問題で、韓国と中国の関係が悪化してからは滞っているようだが)。
 一方、日本でのレジンは、DAU(日次のユーザー数)増加よりもARPPU(課金者の課金額)最大化をKPI(重要業績評価指標)に置いているらしいこともあって、アクティブユーザー数重視の日本のメディアではまだまだ注目されていない印象がある。男性向け、女性向け問わずセクシャルな内容の作品が少なくないことも、メディアで取り上げにくい理由だろう。
 しかし、ウェブトゥーンのローカライズのみならず、日本人作家も起用してオリジナル新作を多数配信し、着実にユーザー数を伸ばしてきている。
 ほとんどの作品の作画のクオリティは、たいていのcomico掲載作品の比ではなく流麗である。また、アクション系はタテ描きならではの重力表現、落下や時間経過の演出に優れたものが多い。そして、ソフトエロ系でもそれ以外でも、強烈な「引き」を作るストーリーの魅力もある。エロ系以外では、(こちらは画力はそれほどでもないが)復讐モノの『少年よ』などは文句なく面白い。

引用:レジンコミックスで配信されている『少年よ』。

韓国資本のサービスであることを謳わないワケ

 さらには、韓国のTOPTOONも日本に進出している(企業名はTOPCO。日本法人はTOPCO JAPAN)。日本でのサービス名はTOPMANGAだ。こちらは韓国では業界5位前後、中国やフランスへも事業展開しているが、日本ではアプリを出しておらず、ブラウザ版しかない。また、メディア露出や広告もピッコマやレジン以上にないため、韓国におけるほどの存在感は今のところない。

TOPMANGAのホームページより。

 以上、全4回にわたって紹介してきた企業/サービスは、韓国デジタルコミック界でも有力である。
 ただし、韓国のウェブビジネス業界/コンテンツ産業では、DAUMとカカオが合併したように、業界再編が少なくなく、韓国では「数年後は違う顔ぶれになっているはず」と思われているようだ。
 また、以下のことなどを理由に、「韓国発」「韓国資本」と積極的に言っていない企業もあることも断っておかなければならない。

・韓国、日本、英語圏、中国などグローバル展開し、それぞれの国に合わせて作品やサービスをローカライズしていること。
・日本では韓国ウェブトゥーンだけでなく日本の出版社から刊行されているマンガも多数配信していること。
・「韓国」というだけで攻撃してくる特定の思想傾向の人たちの存在

 もっとも、例えばハーゲンダッツやソニーなどが、本国以外でビジネスを展開するときに、どこの国で始まった会社なのかわざわざ強調しないのと同じで、こういうことはよくあるものだ。ハーゲンダッツは高級品としてブランディングしたかったためにヨーロッパ風/デンマークっぽい名前にしたアメリカ企業である。また、ソニーがアメリカ企業だと思っている米国人もゴロゴロいる。

韓国の動向抜きに、日本のマンガビジネスは語れない

 いずれにしても、LINEマンガ、comicoは日本のニールセンデジタルやAppApe、インプレスによるアクティブユーザー数の調査や、AppStoreやGooglePlayのブックカテゴリのセールスランキングを見ると、大体、日本のマンガアプリ市場のトップ3~5に、ピッコマはトップ5~10くらいまでに入っている。
 韓国勢の動きは、日本マンガ界、電子書籍界のプレイヤーに確実に刺激を与えている。そして、こうした韓国資本勢の日本での動向(ビジネスモデルや配信作品の流行)は、本国や、やはり韓国製と影響関係にある中国のウェブマンガ/マンガアプリやウェブ小説、ゲームビジネスの動向抜きには考えられない。
 例えばcomicoのスタートは、ウェブトゥーン有料化のパラダイムシフトが起こる以前の13年だ。したがってサービス開始から16年11月までのcomicoは、韓国ウェブトゥーンが14年までそうだったように、完全無料だった。
 そのcomicoが、というか正確には姉妹サービスであるcomico plusのほうから、デジタルコンテンツ自体に課金する「チケット制」のモデルを導入したのは、韓国市場の変化を受けてのものだろう。
 やはり、comico plusがメディアドゥと組んで、日本のマンガアプリでよくある「レンタル」(一回読み切り)に加えて「有料話」(課金すると永久に閲覧可能)を17年5月から導入したが、このように選択肢を2つ提示するモデルは、韓国で先行して存在していたものだ。
 また、韓国企業と組んで韓国市場、ひいては中国や英語圏へのマンガ(ないしIP)輸出を考えている日本企業もある――成功例が出ているとはまだ言えないが。
 今や日本のマンガビジネスは国際的な動き、ゲームをはじめとした隣接するエンタメビジネスの動きと無縁ではいられない。
 日本のマンガ業界は、韓国資本のデジタルコミック事業者とは良き提携者であり、良きライバル関係の中で推移していくだろう。今後の動きにも注目していきたい。

日本のマンガアプリ市場を席巻! 韓国発「ウェブトゥーン」の衝撃波(1)
日本でLINEマンガがウケる理由とは? 韓国発「ウェブトゥーン」の衝撃波(2)
ピッコマはなぜマンガから広告を排除? 韓国発「ウェブトゥーン」の衝撃波(3)

文=飯田一史

飯田一史(いいだ・いちし)
1982年、青森県生まれ。マンガやネット文化などのサブカルチャー、コンテンツビジネス関連の取材・執筆などを手がける。著書に『ウェブ小説の衝撃』など。主な寄稿媒体に出版業界紙「新文化」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/mangabislog.htm)、Yahoo!ニュース個人、「Febri」ほか。

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