日本のマンガアプリ市場を席巻! 韓国発「ウェブトゥーン」の衝撃波(1)

 いわゆるクールジャパンを代表するものに、マンガという文化/産業がある。だが、言うまでもなく、マンガが生みだされるのは日本だけではない。お隣の国・韓国には「ウェブトゥーン」というPCやスマホで縦スクロールして読むマンガの市場があり、2010年代にそこで大革命が起きた。そして、それは決して“他人事”ではなく、その衝撃波は確実に日本にも押し寄せているのだーー。マンガやネット文化に詳しく、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)の著書であるライター/編集者の飯田一史が、韓国発デジタルコミックの動向と日本への影響を4回にわって徹底分析!

韓国勢に日本のマンガアプリ市場は押されている

 株式会社LINEがNAVERの子会社、つまり韓国資本だということを知らない中高大学生が結構いるようだ。マンガアプリの「comico」を運営するNHN comicoが、やはり韓国資本であり、LINEと兄弟会社にあたることを知らないユーザーも少なくないように見える。最近、ムロツヨシ出演のテレビCMをバンバン打っているマンガアプリ「ピッコマ」の運営元がメッセンジャーアプリ「カカオトーク」で知られるカカオジャパンであり、カカオとNAVERは韓国ではライバル関係にあるという話になると、ますます知られていない。



 しかし、アプリストアのランキングを見てもらえればわかるが、「LINEマンガ」「comico」「ピッコマ」は、いずれも日本のマンガアプリ界でもトップクラスのユーザー数や課金額を誇っている。韓国勢に日本のマンガアプリ市場は押されているのだ。にもかかわらず、日本では韓国のデジタルコミック界の動向があまり伝えられていない。韓国の動きを知らずして、彼らの日本での動きを理解することはできないのに、だ。

引用:左よりLINEマンガcomicoピッコマのアプリより。

 そこで、全4回にわたるこのシリーズで、その背景を紹介していこう。

韓国の縦描きマンガ「ウェブトゥーン」に起こった有料化革命

 日本のマンガアプリは、2013年の講談社とexciteによる「Dモーニング」を皮切りに、DeNAの「マンガボックス」やNHNcomicoの「comico」、LINEの「LINEマンガ」などが次々に立ち上がっていった。14年に小学館のマンガワンがマンガアプリに「話売り」(無料で配布されるライフ、または有料のチケットを使って一話ごとに読み切りレンタルするモデル)を導入し、そのモデルが日本のマンガアプリ界に普及していくことになった。
 それとほとんど時を同じくして、韓国ウェブマンガ/マンガアプリでも変動が起きた。PCやスマホで縦スクロールして閲覧することを前提に描かれた縦描きマンガ「ウェブトゥーン」で初めて、コンテンツ自体に課金するモデルを導入されたのだ。これを手がけたのは、13年に設立された新興であるレジンエンターテインメントによる「レジンコミックス」である。ウェブトゥーンは03年にNAVERが始めたのが嚆矢と言われているが、NAVERウェブトゥーンやDAUMウェブトゥーンでは無料で読ませて広告で収益化するモデルが一般的だったのが、大転換したのだ。

引用:コンテンツに課金するビジネスモデルを導入したレジンコミックス(アプリより)。

 韓国のウェブトゥーンは、1990年代に複数の個人ホームページ上で、縦描き以外にもさまざまな形式でのマンガ作品制作と配信が試行される中で生まれたものである(日本のウェブサイト上で散見される「2003年にNAVERウェブトゥーンが始めたことが嚆矢」という記述は誤りである)。本格的に「(縦描きの)ウェブトゥーンとしてヒットした」初期の作品としては、1998年発表の『SNOWCAT』や、『MARINE BLUES』『パペポポ・メモリーズ』(90年代末~01年頃発表)などがよく挙げられる。
 韓国では70年代以来、スポーツ新聞が大人向けマンガの主な発表媒体だったが、2000年代初頭から、新聞が紙面の連載作をウェブでも同時連載させるようになり、ポータルサイトにも波及していった(「新聞にはマンガは付き物」という感覚があったため、「ウェブニュースでも当然マンガは必要」という発想に自然と行き着いたようだ)。
 そして、2003年2月にDAUMがニュースページを「MEDIA DAUM」という名前で改編した際に、ウェブトゥーンもその一部として置いたことをきっかけに、大きく成長することとなった。

 ちなみに、ウェブトゥーン以外にも日本でいう「ページ形式」、紙で読むマンガのように、1ページの中でコマ割りして描かれた韓国のデジタルコミックも存在している。そちらはCOMICPLUSや、日本の電子取次業者メディアドゥとも提携関係にあるMr.Blueなどが、2000年代初頭から有料販売していた。ただし、市場規模を比べると、2010年代のウェブトゥーン市場のほうが大きい。

知られざる韓国マンガ、ラノベ出版事情

 韓国マンガ市場について、「紙はほぼ全滅してウェブトゥーンだけになった」という日本でしばしば語られる俗説は、正確ではない。本題ではないので詳しくは語らないが、例えば紙では新聞マンガや学習マンガの市場は日本の同ジャンルからイメージされるもの以上に非常に大きい。また、デジタルでもウェブトゥーン以外に「マンガの電子書籍市場(日本のマンガの翻訳配信と、日本マンガに近いテイストの韓国マンガ)」がある。紙の雑誌連載から電子雑誌への有料連載配信へ移行した「オンライン漫画の有料連載市場」(連載が溜まればもちろん単行本化される)や、やはり紙から電子書籍へ移行した、ややマニアックな志向性の描き下ろしマンガの市場もあるのだ。
 電子書籍市場では、マンガだけでなく小説やそれ以外の書籍を含めた(Amazonのような)プラットフォーム大手Ridibooksや、電子書籍が流行る以前から独自の手法でマンガだけをオンラインで販売してきたオンラインプラットフォームMr.blueなどが重要なプレイヤーである。昔ながらの紙のマンガや、初出がウェブトゥーンであっても紙の単行本に編集されたものや、その電子書籍版は、Ridibooks、Mr.blueなどでも多く売られており、ロマンスや純情漫画(韓国の少女マンガ)などはMr.blueでの売上も少なくない。
 話をウェブトゥーンに戻すと、レジン登場をきっかけに、NAVERやDAUMなどの競合サービスにも、話売り(日本では「話売り」はレンタルであることが多いが、韓国では1話ごとの閲覧権の販売も一般的である)をベースにした有料化の波が起こり、市場が爆発的に拡大した。そして、そうした韓国のデジタルコミック事業者の日本進出も相次いでいる。
 では、日本に参入している韓国資本のデジタルコミック事業者を挙げてみよう。
 韓国ウェブトゥーンではNAVERウェブトゥーン、DAUMウェブトゥーン、カカオページ、レジンコミックス、TOPCOのTOPTOONなどが、売上上位を占めている主要な事業者だ。これらの企業は、日本にも進出している。正確に言えば、DAUMウェブトゥーンは独立したサービスとしては日本で展開していない。ただ、DAUMとカカオは14年に合併しており、カカオジャパンの「ピッコマ」を通じてDAUMウェブトゥ-ン作品も日本向けにローカライズして配信されている。
 先ほど挙げた電子書籍事業者を含めて、売上を見てみると、以下になる(1ウォンは約0.1円)。

・Podotree:640億3704万ウォン(16年/企業情報会社データ/※カカオページとDAUMウェブトゥーンを手がける、カカオの子会社)
・NAVER Webtoon:466億8865万ウォン(16年/新聞記事)
・レジンエンターテインメント:391億ウォン(16年/自社発表/初の黒字/営業利益6億6千万ウォン・当期純利益4億5千万ウォン/18年上場計画中)
・TOPCO:265億5565万ウォン(16年/企業情報会社データ/KOSDAQ上場準備中)
・Ridibooks:505億2485万ウォン(16年/企業情報会社データ/年70%成長)
・Mr.blue:240億3224万ウォン(16年/KOSDAQ資料/営業利益47億ウォン)

 ちなみに、日本のマンガアプリやウェブ小説、電子書籍系企業をいくつか挙げると、以下のような具合である。

・LINEマンガ:売上高49億円超(15年発表/その後は非公表)
・株式会社アルファポリス:売上高33億4500万円、経常利益9億400万円(16年3月期)
・株式会社エブリスタ:売上高16億1440万円、経常利益7億2858万円(17年3月期)
・株式会社イーブックイニシアティブジャパン:売上高連結119億8200万円、営業利益1700万円(17年3月期)

 つまり、主要な企業の売上規模では日本と韓国でほとんど変わらないと言っていいだろう。
 むしろ、人口は日本1億2500万人、韓国5100万人、GDPは日本4.9兆ドル、韓国1.4兆ドル(米ドル換算)という差を考えると、韓国のデジタルコミック市場は相当に巨大だと言っていい。
 なお、カカオは、マンガ事業に限らない全体の売上は16年度で1兆4642億ウォン、営業利益1161億ウォン、当期純利益655億ウォン(KOSPI上場企業)。一方、講談社は同年度の売上高1172億8800万円、当期純利益27億1400万円。小学館は同年度の売上高973億900万円、経常損失9億3400万円、当期損失8億1300万円。だから、カカオは講談社や小学館と同じくらいかそれ以上の売上ということになる。
 もっとも、カカオはさまざまな事業を手がけるITプラットフォーム企業であり、(近年は有名マンガのゲーム化などによってライツ部門の売上も大きくなってきているとはいえ)基本的には出版事業を中心にしている講談社や小学館と比較してもあまり意味がないかもしれない。以下のような比較の方が、規模のイメージがしやすいだろうか。

・NAVER:売上4兆226億ウォン、営業利益1兆1020億ウォン、当期純利益7591億ウォン(16年度)
・カドカワ:売上高連結2057億1700万円、経常利益連結74億700万円、純利益連結57億6700万円(16年度)
・楽天:売上高連結7135億5500万円、単体2682億1400万円、営業利益連結946億8900万円、単体787億8700万円、純利益連結442億8000万円、単体▲135億5300万円(15年12月期)

 これを見て何が言いたいかーー。日本と比べて韓国のマンガやラノベを扱う企業、エンタメ系のプラットフォームを抱える企業の事業規模は、日本と遜色ないか、それ以上のところが少なくない、ということだ。
 こと電子書籍、ウェブやアプリのビジネスにおいては、韓国のほうが日本よりも進んでいる。ここまで成長させたマネタイズ手腕(ビジネスモデルを作る能力)、利便性の高いサービスを開発する技術力、活発な投資による豊富な資金をもって、韓国勢は日本に進出しているのである。
 では、次回からは具体的にどんな企業/サービスが日本で展開されているのかを見ていこう。

文=飯田一史

飯田一史(いいだ・いちし)
1982年、青森県生まれ。マンガやネット文化などのサブカルチャー、コンテンツビジネス関連の取材・執筆などを手がける。著書に『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。主な寄稿媒体に出版業界紙「新文化」、Yahoo!ニュース個人、「Febri」ほか。

#CULTURE

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