“サ法”とは?“ととのえ”とは? 最新サウナ・カルチャー入門(前編)

一説によると1960年代、東京オリンピックでフィンランド代表が持ち込み、半世紀以上の時をかけて日本に根付いたサウナ。

従来のパブリックイメージは「オヤジたちの楽園」だったが、ここ数年、タレントやアーティスト、アスリートたちがこぞってサウナ愛好家である“サウナー”を自称し、とりわけサウナに開眼した先鋭的なクリエイターや経営者の間でコミュニティが形成されるなど、新たなブームが巻き起こっている。

その一翼を担う二人の“プロサウナー”に取材し、ムーブメントの現在地とサウナ・カルチャーの可能性に迫った。

サウナは、もはや「銭湯のオマケ」ではなく、次世代の可能性を秘めた体験型コンテンツの一つとして注目を集めている(写真提供/秋山大輔)

サウナの「ために」汗をかく伝道師“プロサウナー”

“ととのえ親方”松尾大さん
プロサウナー、プロととのえ師、サウナビルダー。世界各地のサウナを渡り歩き、アリゾナの山奥で単身5日間断食断水後のサウナを経験。海や川、滝や流氷まで水風呂がわりにするナチュラル系プロサウナーの道へ。現在、サウナに関する番組やCM、イベントなどのプロデュースに関わる

“サウナ師匠”秋山大輔さん
プロサウナー、プロ熱波師、サウナビルダー。20代でサウナに目覚め、国内外の様々なサウナを体験。“ととのえ親方”とともにフィンランドをはじめとする5ヶ国11サウナを体験し、帰国後すぐにサウナー専門ブランドを立ち上げる。サウナイベントプロデュースなど、様々なサウナ関連のプロジェクトも手掛ける

「先に入って“ととのえ”てます」

指定された東京渋谷区の笹塚にある『マルシンスパ』に着く前、プロサウナーの“ととのえ親方”こと松尾大さんからメールが入った。盟友である“サウナ師匠”秋山大輔さんも既に入っているとのこと。

札幌でいくつか会社を経営している松尾さんがサウナに目覚めたのは数年前。水風呂の気持ち良さに開眼し、北海道を訪れる経営者たちを案内するコースにサウナ体験を組み込んでいたら、自身も深くのめり込み、いつしか“親方”と呼ばれるようになった。

一方、東京でイベント会社を経営している秋山さんは、20代半ばの頃、過労がたたり、自律神経を壊した。その時、救ってくれたのが日光に当たりながら入れるサウナだった。以来、その魅力を人に教えていくうちに弟子ができ、その弟子がまた人に教える、という流れが自然に形成されたという。

そんな二人がお互い、東京と札幌に「すごいサウナーがいる」と噂を聞きつけ邂逅。初めて会った日に意気投合し、食事を挟んでいきなり2サウナ巡り。さらに、フィンランドをはじめ北欧、東欧のサウナ先進国を5ヶ国11サウナを旅するなど、サウナへの造詣と愛情を深めていった。

※サウナによってある種のトランス状態に入ることをサウナスラングで「ととのえる」と表現する

「僕らはサウナに恩恵を受けすぎているから、恩返しをしたいんです」

カラッカラに乾燥した超高温サウナで先輩が出るまで耐える。従来の間違った固定観念を覆し、本質的に「気持ちの良いサウナ」を広めたい。そのために、“プロサウナーによるプロサウナーの為のブランド”『TTNE PRO SAUNNER(ティーティーエヌイー プロサウナー)』を立ち上げ、11月11日を「ととのえの日」に記念日登録。

それだけでなく、例えば実業家の本田直之氏やミシュランシェフたち、堀江貴文氏や元F1レーサーの小林可夢偉氏など、様々な業界のキーパーソンにその魅力を啓蒙し、「オヤジ」のイメージだったサウナを若者や女性にも開いたカルチャーにまで引き上げる活動をしている。

日常使いにもお洒落な『TTNE』は、Tシャツやサウナパンツ、サウナハット、ウォーターボトルなどを展開。著名人にもファンが多い

多くの人を虜にする恍惚の“無”の境地を体感

そんなプロサウナーの二人に正しいサウナの入り方、通称“サ法”を教わった。

“サ法”の基本は、サウナから水風呂、そして“外気浴”。この流れを2~3セット繰り返すことだ。

まず、かけ湯をしてからサウナに入る。この時、決して無理をしないで「出たい」と思ってから100数えるくらいがおすすめだとか。

「よく12分とか言われますが、体系や体脂肪率、その時の体調など人それぞれで異なるので、気にしなくてもいいです」(親方)

「サウナ室は温度が高ければ良いというものではなく、適度な湿度があるのが良いサウナです」と親方(写真左)

『マルシンスパ』では、サウナストーンの石に水をかけ、そこから立ち上る蒸気を浴びる本場フィンランドの蒸気浴『ロウリュ』が人気。サウナフリークたちは、風を送る“熱波師”の推しが各地にいるとか

続いて水風呂。まず頭のてっぺんまでざぶっと潜り、身を浮かせる。

「これをサウナ用語で“浮遊浴”と言います。その後は、後頭部を冷やす体勢をキープする。目安としては1〜2分、心拍数や呼吸が安定し、体が水風呂になれてきたら出ましょう」(師匠)

水風呂では指先が一番冷たさを感じるので、冷たすぎると感じる時は水面から手を出せば体感温度があがって楽になるとか

「理想の水風呂の温度は16-18℃。冷たすぎる“グルシン”(シングル=9℃以下)が一概に良いわけではありません」(師匠)

この時、膜で包み込まれているように感じる状態を“はごろも”というのだそう。

“はごろも”をつくっている親方。この状態の人がいたら、極力波を立てずに入るのがサウナーのマナーだとか。その他、水風呂用語は、後頭部から浸かる“バックスタイル”、170cm以上の深さのある水風呂の“頭オーバー”等がある

「最後が実はサウナのメインディッシュなんです」と親方が語る“外気浴”。これは水風呂から出て、できるだけ屋外の空気を浴びること。この時、乾いたタオルで皮膚の表面の水分を取りすぎると、人間の身体は体温を下げようとまた汗を出そうとしてしまいます。なので、水風呂から上がったらよく絞った濡れたタオルで身体を拭く。

「そうすることで薄く水滴が残り、その水分が風に触れて気化することで、肌にくっついていた産毛がピンッピンッと立ち上がり、皮膚の感覚が敏感になり、風や空気に触れるだけで体を優しく撫でられているような心地良い感覚になります。その状態が続くと、血が回って何も考えられなくなる。この状態になってはじめて“ととのう”んです」(親方)

マルシンスパの外気浴スペースは「天空のアジト」の名の通り、解放感抜群。晴れれば富士山が望める。「ここは都内でも有数の環境です」と師匠も絶賛

実際、お二人と共に体感してみると、1セット目は水風呂の冷たさに慣れるまで戸惑いながら、外気浴では「気持ち良い」という程度だった。続けて2セット目、3セット目と繰り返すうちに体が解放されたように軽くなり、3セット目の外気浴では、目を閉じると周りの談笑が徐々に遠くに聞こえ、恍惚感とともに頭の中が真っ白な状態に。

ととのった後の二人の笑顔にはピースフルなムードが溢れている。国内外問わず年間400サウナ以上を訪れる二人は「これまでのオヤジ臭い、ダサいサウナのイメージを壊し、カルチャーとして伝えていくことが自分たちの使命」と語る

「経営者やクリエイターは、仕事以外の好きなことをしていても、常にビジネスや情報、アイデアが頭にあってリラックスできない。だからサウナで完全に頭の中を“無”の状態にして、そこから生まれるアイデアやひらめきを大事にする。その状態はサウナでしか経験できないので、夢中になる人が多いのだと思います」(師匠)

先進的な企業ではサウナ部を作って親睦を深めたり、1週間の中でもっとも憂鬱な月曜の朝にサウナに入り、やる気スイッチを入れる“朝ウナ”も人気だという。

心身ともに“ととのえ”てくれるサウナ。経営者やクリエイターたちが夢中になることにも頷けるが、親方と師匠によるとサウナが注目されている理由は“ソーシャル性”にもあるのだそう。後編では、進化するサウナのコミュニティに迫ってみたい。

(後編へ続く)
観覧車やレストランもサウナ化する時代へ。最新サウナ・カルチャー入門(後編)


【記事内のサウナ重要人物/場所】
▼“ととのえ親方”松尾大さん
 Instagram
▼“サウナ師匠”秋山大輔さん
 Instagram
▼プロサウナー向けブランド「TTNE PRO SAUNNER」
 WEBページ
▼天空のアジト マルシンスパ(取材協力)
 WEBページ


写真=是枝 右恭
取材・文=藤谷 良介
企画=東京ピストル

#CULTURE

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