小杉湯から広がるビジネス、アート、まちづくり。銭湯コミュニティの可能性(前編)

©️銭湯再興プロジェクト

どの街にもあり、かつては床屋、寄席と共に地域コミュニティの担い手だった銭湯。その日本の伝統的な公衆浴場が、いまバタバタと廃業が続き、減少の一途を辿っている。

そんな状況の中、独自の活動で新しい銭湯カルチャーを発信している東京の二つの銭湯を取材し、その可能性に迫る。

中央が『小杉湯』3代目の平松祐介さん。誰かの指示を待つのではなく、自分の物語を生きる為に銭湯を活用してもらう、という考えでコミュニティを作っている(©️銭湯再興プロジェクト)

「銭湯」×「暮らし」で新しい文化を発信

アンダーグラウンドな音楽や古着ファッションなど、東京・中央線の中でも独自のカルチャーが醸成されている街、高円寺。その中の賑やかな商店街の裏路地にある『小杉湯』は、昭和8年に創業。多国籍な人種と多様な文化が交差する街の憩いの場として愛され続けている。

2017年3月、そこに隣接する小杉湯所有の風呂なしアパートが1年後に解体することになった。そこで、小杉湯で生まれ育ち、一昨年より業務を主導することになった3代目・平松祐介さんが主導で“銭湯ぐらし”プロジェクトがスタート。

これは解体までの間、アパートにそれぞれ実現させたい夢を持つ仲間が集まり、『湯パート』として一つ屋根の下で暮らしながら、それぞれの専門性と銭湯をかけあわせた活動を発信するコミュニティだった。

ここにしかない名物の「ミルク風呂」や週替わり、日替わり風呂。さらに温冷交代浴など、銭湯としての魅力も高く、休日は1日500人訪れ、中には遠方から通うファンも

「3代目が番台から面白い人をキャスティングする“番台キャスティング”や普段、小杉湯を利用する常連さん、様々な活動をしている知り合いに声をかけてメンバーを募りました」

そう教えてくれたのはイラストレーターの塩谷歩波さん。もともと建築士で銭湯のディテールを愛情あふれるタッチで描いた『銭湯図解』をSNSで発表していたところ小杉湯にスカウトされ、転職。現在は番台をはじめメディア対応等、中心メンバーとして運営に携わっている。

前職で体を壊し休職中に通っていた銭湯に救われたという塩谷さん。『銭湯図解』が評判を呼び、現在は各種メディアでイラストを制作。『銭湯図解』をまとめた書籍は来年1月発刊予定。「救ってくれた銭湯に恩返ししていきたいです」

集まった約20人のメンバーはミュージシャンにデザイナー、編集者、アートディレクター、主婦、旅人など多種多様。

活動としては、例えば“歌う銭湯”として小杉湯の中での定期的なライブやアパートの一室をアトリエとして開放。さらに月替わりでアーティストが作品を展示する『創る銭湯』等、それぞれの「やりたいこと」に銭湯を活用した斬新なプロジェクトが生まれ、ビジネスからアート、まちづくり等、銭湯の新しい可能性を提示し、話題となった。

オリジナル楽曲やCM音楽、ドラマ劇伴などを手がけるミュージシャン兼コンポーザーの江本祐介さんは、『小杉湯』の営業後の深夜清掃バイトをしながら、定期的にライブを開催していた(©️銭湯再興プロジェクト)

2018年1月、『湯パート』解体直前に、全部屋の公開やトークイベント、演劇等の「銭湯のあるくらし展 〜さようなら湯パート」を開催し、大盛況で幕を閉じた(©️銭湯再興プロジェクト)

「メンバーはみんな生業で忙しい人たちでしたが、銭湯という存在が家とも会社とも違う、日常の先にある“余白”の空間だったからこそ、このコミュニティが成り立ったのだと思います。銭湯の大きな魅力も、頭を“真っ白”にできる時間。まさに、お風呂のような心地良い関係性でした」

仕事も世代も、性格も異なるメンバーに共通している唯一の要素は「銭湯を、小杉湯を愛してやまない」こと。

それぞれのプロジェクトは自発的かつ自由参加で強制力は一切ない。その愛情とゆるやかな繋がりは、2018年2月にアパートが取り壊された後も、進化しながら継続している。

新しいコミュニティで銭湯の伝統を紡ぐ

“銭湯ぐらし”が新しい形態を模索するなか、新たに、月額メンバー制のオンラインサロン『銭湯再興プロジェクト』が始まった。一般的なオンラインサロンは参加者が会費を払い、一人のカリスマのセミナーを受けるスタイル。

「銭湯再興プロジェクトは、3代目も私もみんな会費を払っていて、全員が同列のコミニュティなんです。オンラインでの集まりだけじゃなく、毎月末の店休日に小杉湯に集まって、やりたいことにプレゼンの時間を設けています。みんなアイデアが溢れですぎて時間がいくらあっても足りない(笑)」(塩谷さん)

既に、サウナの本場フィンランドを訪れて体感した本場のサウナ文化を“輸入”し“夏至祭”と名付けたイベントを小杉湯内で開催したり、お酒を楽しみながら男女が着衣で混浴するビーズ風呂を実施したり、今後も銭湯にまつわるフリーペーパーの発行など、様々なイベントやプロジェクトが予定されている。

2018年6月22〜24日に『小杉湯×フィンランド 夏至祭』が開催。テントサウナやサウナトラック、フィンランドグッズや本場の料理、ヨガ等、現地の文化が体験できるイベントは多くの人で賑わった(©️銭湯再興プロジェクト)

プロジェクトの進め方も、一般的なリーダーからのトップダウン方式ではなく、内容によっては琴線にひっかかった参加者が自由に進めるといったスタイルが、実に銭湯らしくてゆるやか。

さらに、取り壊したアパートの跡地には、新たなコミュニティスペースをつくる予定だという。

1Fは小杉湯の快適な待合室を拡張したような地域に開かれたランドリーカフェ。2Fには街に少ない電源とWi-Fiを備えたコワーキングスペース。そして3Fは、ヨガや少人数のセミナー等ができるレンタルスペースを設け、銭湯のように天井から光が入り、風が通りやすい空間に設計。進化形銭湯ともいえる新しいカルチャー発信地を目指す。

来年オープン予定のコミュニティスペースのジオラマ。コワーキングがメインではなくあくまで地域の方にひらかれた施設を目指している

「銭湯という箱は、どの街にもあって、老若男女が知っていて、いろんな人が集まって癒やされる。それでいて建築的に独特で、様々な表現やイベント、広告まで空間としての受け皿は多種多彩。こんな特殊な素材は他にはないので、“銭湯再興プロジェクト”では、これからもっとソフト面を充実させていきたい。そしていつか、学校帰りの女子高生が、スタバではなく「銭湯いこっか?」が当たり前になるようなカルチャーにまで底上げしたいです」(塩谷さん)

「他の銭湯の若い世代の方とも連携をとって、共同のイベント等、コミュニティを広げていきたいです」と塩谷さん。新しく作り上げようとしているコミュニティスペースをはじめ小杉湯から発信されるカルチャーは、徐々に規模を広げ大きなムーブメントになる予感を抱かせてくれる。

しかし、銭湯カルチャーの可能性を感じさせてくれるのは小杉湯だけではない。東京都北区にある『殿上湯』もまた、そこにしかないコミュニティを形成し独自の発信を続けている。後編では、『殿上湯』の活動に迫っていく。

(後編へ続く)
銭湯のピアニストからヤクザ映画まで、殿上湯はなぜ自由すぎるのか。銭湯コミュニティの可能性(後編)


【記事内の銭湯重要人物/場所】
▼小杉湯
 住所:東京都杉並区高円寺北3-32-2
 電話:03-3337-6198
 営業:15:30〜翌1:45、木曜定休
 WEBページ
 Twitter
▼銭湯ぐらし
 WEBページ
▼平松佑介さん
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▼塩谷歩波さん
 Twitter
 銭湯図解 Official Website
▼江本祐介さん
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写真=上樂 博之
取材・文=藤谷 良介
企画=東京ピストル

#CULTURE

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