バイクからエンジンがなくなる? 台湾から世界へ広がる電動化の波

僕はバイクが好きだ。好き過ぎて二輪業界でフリーランスとして活動している程に好きだ。エンジンならではの吹け上がり、高回転まで回して変速しながら走る……あの感覚にはロマンがある! そんなバイクに魅せられてこの業界に飛び込んだのだが、近年バイクからエンジンがなくなろうとしている。自動車同様に電動化の波によりエンジンからモーターへと見直されることで、バイクは今大きな変革を迫られているのだ。

電動化の波に乗り遅れた日本の二輪メーカー

バイクの電動化は日本だけでなく、世界的なムーブメントとなっている。現状最も現実的かつユニークな進化を遂げているメーカーは、日本ではなく台湾にある。しかも、2011年に設立したベンチャー企業で、電動バイクの開発、製造、販売だけでなくシェアリングサービスも展開。今までバイクに乗らなかった人の生活にも変化を与えようとしているのだ。今、バイクの電動化はどこまで進み、これから先どうなっていくのだろうか。

バイク保有率世界トップの台湾。街中にはバイクが溢れ返っている

その前にまず、なぜ「エンジンがなくなろうとしている」のかを整理してみる。正確には、「エンジンの製造が困難になっている」という状況なのだが、その理由は大きく分けて二つ。「排出ガス規制の強化」とそれに伴う「莫大な開発のコスト」である。「排気ガスを減らし空気を綺麗にしよう」と1998年に始まった排気ガス規制は、段階的に乗り越えるハードルが高くなり、そのタイミングで変わることを余儀なくされると同時にバイクの歴史や流行りも塗り替えられてきた。規制は全部で5段階のレベルに分けられていて、去年はレベル4(EURO4)が適用されたことで多くのバイクが生産終了となった。あのスーパーカブでさえその対象となり、各メーカーはなんとかEURO4に対応したが、レベル4をクリアしたエンジンやこれから出てくるエンジンがレベル5(EURO5)をクリアできるとは限らない。規制が最終段階となっているため、排気ガスの不純物濃度指数が前のレベルに比べて半分、などの要求は当たり前。各メーカー、余裕な表情を浮かべている人はゼロに等しい。規制に合わせて新開発すればクリアは出来るのだが、エンジン一台を新開発するだけでも莫大な労力と資金が必要となる。つまり二輪メーカーはエンジン車だけを作り続けることがほぼ不可能な状況に追い込まれているのだ。

台湾では国を挙げて電動化に取り組んでいる

その隙をつくように2010年ごろから盛り上がりを見せ始めたのが海外メーカーの電動バイク。中には今までバイクを作ったことがないメーカーまで参入し、電動化は大きく動き出す。電動バイクの開発において、従来のメーカーと新規参入企業との間の差は然程大きくはない。むしろ身軽な分それらのメーカーは、時代に合ったやり方、車体、システムをスムーズに導入することができ、結果、自国でどんどん勢力を拡大している。そんな中、特に大きな動きを見せているのが台湾発祥のメーカー「Gogoro」。バイク社会の台湾において、すでに国内では多くの人から親しまれ、お年寄りから若い人たちまで所有者の層は厚い。日本の地方では軽自動車が生活必需品と言われているが、台湾ではそれがGogoroに置き換わっている。

台湾は誰もが車を持てる経済環境ではない。しかし、移動距離が大きいので自転車では生活の足にならない。そのため昔から小排気量のバイクが生活の足となっているわけだが、あまりにも数が多すぎて大気汚染問題の原因として問題視されるようになった。国、政府が動いてバイクの台数制限をしないとならないほどの状況になっていたのだが、2008年の政権交代をきっかけに電動化の流れにシフトした。例えば、古くて環境に悪いバイクから電動に乗り換えると国から補助金が出る。同じエンジン車への乗り換えでも新しいバイクであれば補助金が出るため、人々は一気に電動バイクや排気ガスが綺麗なバイクへの乗り換えに走り始めた。

排気ガス規制に関する取締りは厳しく、一般人が不法な改造車を通報することも多いそう

そして同じタイミングで、環境を改善しつつ、人々の暮らしをもっと便利にしようと2011年に生まれたのがGogoro。

昨年登場した「Gogoro2」は4万4800台湾ドル(約16万4,000円)で販売され、価格、デザイン共に若者にも支持されている

注目する点はいくつかあるが、中でも面白いのが料金システム。最初に車両を購入するのは従来と同じだが、それ以降、移動距離に応じた使用料金が発生する。代わりにガソリン代は一切かからない。Gogoroのバイクは各地にあるバッテリーステーションでバッテリーを交換し、メンテナンス等はサービスセンターで対応してくれるのだが、それらを含め利用した分だけ料金を払うというわけだ。Gogoroの中だけで完結するこのシステムは、バイクと言うよりスマートフォンに近い。

Gogoroのバッテリーはパナソニックのリチウムイオンバッテリーで、満充電で100マイル走行可能

バッテリーステーション「GoStation」はコンビニの店頭や大学構内など、アクセスが良好な場所に設置されている

それもそのはず、Gogoroの資本会社はスマホなどを作る大手メーカー「HTC」だ。この新しいシステムが幅広い人たちに響き、車体のデザイン性の高さも相まって、今ではおしゃれ好きな若い女の子からバイク小僧にまで受け入れられ、ブランディングイメージも自然と固まっていった。

車体システムにもGogoroの凄さが詰め込まれている。車体のデータはサービスセンターへ常に送られているため、故障すればメーターパネルにアラートが表示されるだけでなく、リモートで故障箇所まで分かってしまう。ユーザーもメーカーも突然の故障にすぐ対応することができる。

専用アプリでスマホと連動ができる。走行距離や最高速度、電力の消費効率なども記録される

また、日本で言う自販機と同じような間隔でバッテリーステーションがあるため、遠出もできる。スマホアプリで周辺のバッテリーステーション、そのステーションのバッテリー状況までモニタリングすることができる。車体にIoTシステムを導入することでエンジンのバイク、古臭いバイク屋などのシステムは急激に衰退し始めている。

日本では2017年10月に住友商事がパートナーシップを締結

Gogoroはすでに日本にも上陸している

実はこのGogoro、既に日本にも導入されている。2018年1月に沖縄県石垣島にてGogoroのシェアリングサービスが始まった。主に観光客がメインだが、島内4箇所にバッテリーステーションが設けられ、時間制でGogoroを貸し出している。ヘルメットなどの貸出もあり、走行距離によって別途料金を取られることもない。手ブラ出掛けて観光を楽しめるため、導入からすぐに人気が出始めている。現状は石垣島のみでの導入だが、将来的には東京へ導入される可能性も十分に考えられる。

従来の二輪メーカーも一歩遅れて参戦

日本だけでなくヨーロッパなどにも展開するため、現在新機種を投入したGogoro。しかし他のバイクメーカーも指を咥えて見ているわけではない。日本のバイクメーカー「Honda」は125ccクラスとして扱える電動スクーター「PCX ELECTRIC」を発表した。バッテリー交換型のシステムはもちろん、コンセントで充電することも可能だ。同シリーズで、動力を電動とエンジン両方を使う「PCX HYBRID」も登場。まだコンセプトモデルの段階だが、2018年内に市販化を予定、インフラ整備も進めている。

Gogoroに遅れながらも登場した「PCX ELECTRIC」は東京モーターサイクルショー2018に展示され注目を集めていた

もう一つ参戦してきたメーカーはGogoroと同じく台湾を拠点として世界にも進出しているバイクメーカー「KYMCO(キムコ)」。主にスクーターを取り扱う企業だが、つい先日独自のバッテリーステーション「Ionex(アイオネックス)」を発表した。基本的にはGogoroのバッテリーステーションと大差ないシステムだが、KYMCOは昔からオートバイを作っているメーカー。これを元にIonexに対応した新しいバイクや以前のモデルを電動に改装したバージョンなど手広く広げる準備を着々と進めている。

KYMCOはGogoroを追随できるのか

今のままでは日本が逆転することはできない……

恐らく国内の別のメーカーなどもタイミングを見て参戦してくるだろう。しかし、日本国内で電動バイクを扱うには様々な問題がある。一番大きな問題は、法律上定められている電動バイクのパワー規制が台湾など海外と比べて1/10程度の数値に設定されていること。例えば、台湾で原付きとして登録できるGogoroを日本にそのまま持ってきた場合、原付きではなくもっと上の区分になってしまうため普通二輪免許が必要となり、税金や保険なども普通の原付きに比べて高いコストが掛かってしまう。もちろん乗り換えたところで、台湾のように補助金は出ない。そのため石垣島のGogoroは無理やりリミッターをかけてパワーを規制し、原付きとして登録できるよう改変している。原付きの一つ上、125cc区分も同じで法律上の設定数値があまりにも低い。50cc、125cc、250cc、400ccと細かく区分が別れているのも世界的に見ればかなり珍しい。まずはこのルールから変えなければ、日本で電動バイクを広めることは難しい。

バッテリーステーションの設置がカギ

また、インフラ面でも問題がある。これはGogoroも含めたすべてのメーカーに言えることだが、都心にバッテリーステーションを複数台設置するには莫大な資金が必要となる。年内に製品化を目指しているHondaは現在この問題に直面しているため、一応コンセント充電の機能も採用したようだ。都心だけなく地方も視野に入れるとなるとインフラが整うまで恐らく10年単位で時間を要する。車の充電ステーションがいい例で、最近になってやっと道の駅やサービスエリアに必ずあるレベルになったものの、ここまで来るのに10年弱かかった。それでもまだ整い切ったとは言えない。

日本メーカーはこれからインフラ整備を整える一方で、台湾では街中のいたるところにGogoroの姿がある

電動バイクの場合バッテリー容量が小さいため、車の充電ステーションより密にバッテリースポットがないと長い距離を走ることはできない。それこそ自販機レベルになるほど整えるには10年以上の時間がかかってしまうだろう。Gogoroは台湾国内でインフラを整える際にコンビニなどとも組むことで多数のバッテリーステーション設置を実現した。台湾が元々バイク大国だったというのも大きな要因だが、Gogoroが登場してから短期間でインフラを整えたことの功績は大きい。

日本国内で電動バイクをメジャーに走らせるには法律から見直さなければ難しいだろう。冒頭で話していた排気ガス規制のレベル5(EURO5)が適用されるのは2020年から。適用後も残るエンジン車もあるが、数年後にはまた次の規制が適用される。規制厳しくなったせいで世界の二輪市場が極端なものしか作れなくなり、バイクそのものが面白くなくなってしまっては本末転倒。それはバイク好きな僕からするとあまりに悲しい……。現実的にバイクのエンジンは少し厳しい状況に追いこまれているが、電動とエンジンの共存が二輪業界の大きなカギだと思っている。厳しい環境から革新的なGogoroが生まれたように、追い込まれた日本のメーカーからロマンのあるバイクが生まれることを、祈るような気持ちで注目している。


取材・文=佐藤 快
取材協力=エムファクトリー 代表 三保田 好一

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