言い切るのではなく、無数のレイヤーを感じること—— VIDEOTAPEMUSICの韓国・ソウル公演日記(後編)

インディーの聖地・弘大(ホンデ)を歩いて——VIDEOTAPEMUSICの韓国・ソウル公演日記(前編)

ソウルの弘大(ホンデ)にあるライブハウス〈空中キャンプ〉で初海外ライブを行い、オーディエンスを沸かせたVIDEOTAPEMUSIC。得体の知れないエネルギーが充満した会場は、イベント名にふさわしく、“素晴らしくてNICE CHOICE”な空間だった。スピーディーに車が行き交う大通りを抜けて、今日もみんなが集う路地へ。ソウルの空気に馴染んできた、ライブ滞在記後編。

世界各国の夜 / VIDEOTAPEMUSIC

1月20日(土)「ライブ2日目 熱くて長い夜」

みんなと昼に待ち合わせして、弘大駅近くの〈チュンジャテグタン〉という店でテグタン(タラ鍋)を食べた。ゴさんは2日酔いだった。しかも、昨晩の記憶もあまりなくて、ゴさんのリクエストでエマさんが迷路を使ったパフォーマンスをしたことさえも覚えていなかった。どこまでも、愛すべきキャラクターだ。テグタンは赤いスープと白いスープがあって、みんなでシェアをした。白子のボリュームがすごくて、食べても食べても白子がなくならない。日本だとこんな豪快に白子を食べることもない気がする。辛いスープやニンニクを思い切って摂取したかったけど、今晩もライブがあるし、お腹を壊してはいけないのでほどほどにした。

白子たっぷりのテグタン(白いスープ)。セリの食感もワイルド

2日目のリハは軽めにして、空き時間にまた一人で散歩をした。グーグルマップで調べたら弘大から漢江(ハンガン)まで意外と近かったので、歩くことに。滞在中に度々感じたことだが、ソウルの街は高層ビルとギリギリ残っている古い街並みのコントラストが激しい。取り壊された家屋や空き地の背後に、タワーマンションがそびえ建っている。下町とスカイツリーのように、東京にもコントラストを感じる景色はあるけど、変化の差がソウルはもっと極端だ。
しばらく歩いて漢江沿いに着いた。日本の河原にあるようなワイルドな植物に出会えることを期待していたが、そういうものはなく、ただの荒野だった。冬だからとはいえ、もう少し植物があるかと思った。ちょっと残念。韓国らしい植物を探すのは、次回の課題にしよう。歩きすぎたせいでスニーカーがボロボロになった。

この日のライブは、fairbrotherというソロのトラックメイカーのライブから始まった。なんと、10年以上ぶりのライブで、人前で歌モノを披露するのは初だったそう。 fairbrotherさんとベーシストの2人編成で、歌モノとインストが半々くらい。宅録感が強く少しいなたい90年代風味のブレイクビーツで、ダブっぽいアレンジも心地よい。サウンドからはフィッシュマンズやTOKYO No.1 SOUL SETといった日本のアーティストからの影響も感じる。サングラスをかけた立ち姿は少し、かせきさいだぁさんを彷彿とさせた。後から聞いたのだけど、エマさんは翌日、彼の自宅へ遊びに行き、60~70年代の大韓ファンクやソウルのレコードを色々聴かせてもらったそうだ。先日来日したDJソウルスケープも彼のことをよく知っていた。

베이비 / FAIRBROTHER

この日のエマさんのライブはいつもよりダンサブルに感じ、満員に近いフロアを前日以上に沸かせていた。日本でのライブ活動も精力的に行う3ピースバンド、Parasolも出演。メンバーの2人がライブの数日前に食中毒にかかったらしく「バッドコンディションです……」と言っていたけれど、そんなことはまったく気にならなかった。謎のリズム感と隙間がかっこいい。特にギターの鳴りがすごくツボだった。

枕と天井 / Parasol

自分のライブはと言うと、前日以上の盛り上がりで、ここ最近のライブの中でも一番手応えを感じた。エマさんと演奏したフィッシュマンズの「SEASON」のカバーは特に反応がよかった。ゴさんをはじめ、お世話になった人達へのサプライズとして演奏したかったので、直前に急遽内緒で準備をした。エマさんとの共演も当初2曲の予定だったのだが、アンコールに次ぐアンコールで予定外の曲もやることになり、最終的に6曲になったのも、自分的にはサプライズだった。最後はエマさんと2人で「煙突」を演奏し、2日間のライブを締めくくった。

リハ中のParasol。ナウンさんのギターがかっこいい

アンコールに次ぐアンコール

2日間のステージを共にしたエマさん。ますます憧れの存在になった

エマさんが書いてくれた「SEASON」の楽譜

〈空中キャンプ〉での打ち上げ風景

土曜の夜だったこともあり、ライブ後もお客さんが大勢残っていた。みんな酒を飲むのが好きなようだ。フロアの中央に出した長テーブルは、あっという間にビールの空瓶で埋め尽くされていった。

実は、今回の旅で行ってみたい場所が他にもあった。それは、乙支路(ウルチロ)というソウル中心部の専門商街にある〈新都市〉というクラブ。タイミングのいいことに、この晩のイベントにはpanparthさん、DJ DJ機器さんなど日本のDJも出演すると言う。打ち上げを少しの間抜けて、行ってみようということになった。

弘大からタクシーに乗り、20分ほどで〈新都市〉に到着。韓国のタクシーは日本に比べてだいぶ安いのが嬉しい。噂通りの古い雑居ビルで、「ここでいいのかな」と様子を伺いながら入るところも、こうしたオルタナティブスペースならでは。ビルの階段を一段ずつ上がっていくうちに店内から漏れ聞こえる音が大きくなり、扉を開けてフロアに入ると、ネオンとレーザービーム、スモークの演出で彩度の高めな異空間が広がっている。〈空中キャンプ〉とは遊んでいる人の客層も少し違うようだ。日本から来ていた友達も楽しそうに踊っていた。都市の隙間のような場所に人が集まり、音楽を楽しむ。自分が東京で馴染みのある場所に例えるなら、オフィス街にひっそりと存在するエアポケットのような感じは八丁堀〈七針〉のようだし、雑居ビルを恐る恐る上がっていった先に音が聞こえてくる感じは三軒茶屋〈a-bridge〉の雰囲気に近いかもしれない。またも、パラレルワールドにいるような気分になった。

〈新都市〉のあるビル。ロゴのデザインもタイプだ

これが入口のドア。アジトのよう

バー営業もしているそう。屋上の雰囲気も最高だった

さらにフロアは熱くなりそうだったけど、そろそろ弘大へ戻ろうかと外に出たところ、パク・ダハムさんが「すぐ近くの雑貨店〈宇宙萬物(Cosmos Wholesale)〉に寄っていきますか?」と声をかけてくれた。ダハムさんは、イベントのオーガナイズや、レーベルも運営するソウルのキーマンで、日本の音楽シーンとも関係が深い。〈新都市〉や〈宇宙萬物〉のスタッフでもある。

深夜かつイベント中にも関わらず、臨時で開けてくれるなんてラッキーだ。お言葉に甘えて連れていってもらった。こちらも雑居ビルの一室で、店内にはレトロな雑貨や新旧のレコード、カセットテープ、VHS、アーティストの作品、アパレルが所狭しと並んでいる。僕は台湾の古いレコードと、韓国の90年代のVHSを何本かジャケ買いした。この店は、闇雲にガラクタを置いているのではないところがいい。セレクトされているけれど、かと言ってトレンドを追っているわけでもなく、ちゃんと奇妙なものがある。時間があれば何時間でもいられる場所だった。こうして、思いがけず深夜のショッピングを楽しんだ僕らは、弘大の打ち上げ会場へと戻った。

〈宇宙萬物(Cosmos Wholesale)〉のVHS棚。お宝が眠ってそうだ

松永さんが購入した女性ファンクのレコードもよさそうだった

1月21日(日) 「最終日に想うこと」

最終日は帰国まで少し時間があったので、広蔵市場へ行った。ゴさんのアテンドで公共バスを使って移動したのだけど、ジェットコースター級の運転の荒さだった。バスの運転手も感情表現が豊かなんだなあと思うしかない。

市場は色々な韓国料理が食べられる。中でも、チヂミを揚げたようなものが絶品だった。当たり前だけど、日本で食べるものとは比べものにならないくらい、本場の韓国料理は美味しかった。キムチ一つを例にとっても、全然違った。日本で食べるキムチは、辛くて、甘くて、酸っぱくて、と味の情報量は多いんだけど、音楽に例えるなら、音が隙間なく詰まっていてヌケがよくない曲のような印象。一方、韓国で食べたキムチは味自体は濃くなくて、シンプルなんだけど、とても深みがあった。音数が少なくてヌケがよい曲みたいに、ずっと食べていても飽きがこない。帰る頃には、すっかりその味の虜になってしまった。まだまだ滞在したい気持ちで、みんなと別れの挨拶をした。

広蔵市場。次回は平壌冷麺を食べに行きたい

ホテルの部屋からの景色

2日間のライブを終えて、映像に韓国語訳を入れるなど、コミュニケーション上で「もっとこうすればよかった」と思う部分は多少あった。けれど、お客さんの反応から、曲の意味というより、曲のムードがしっかりと伝わっているのが実感できたし、〈空中キャンプ〉の棚にジャッキー・チェンやエドワード・ヤンのVHSがあったり、ブラジルのトロピカリズモに影響を受けたと話す人がいたように、同時代に同じようなものを観たり、聴いたりしている人が韓国にもいることを知った。もちろん、道端で踊っている10代の若者に「エドワード・ヤンを知ってる?」と聞いても、知っている可能性は低いけど。

ここ数年、音楽的に共有できることが増え、実際に日韓アーティストの共演も盛んになってきている。これは、自分が音楽を始めた頃は想像できなかったことだ。10年くらい前だと韓国の音楽と言えば、ポンチャックか、学生時代に立川のTSUTAYAで手に取ったユンキー・キムの『ASIAN ZOMBIE』(韓国のレゲエ/ダブの超名盤!)くらいしか知らなかった。だけど、こうして実際に足を踏み入れてみると、日本と同じくらい韓国の音楽シーンにも層や幅が無数にあって、“韓国の音楽”という言い方ではくくれなくなってきていることを感じた。多様化しているからこそ、いい意味で「韓国はこうだ」という言い切りが不可能で、だからこそ、もっと知りたいなと思う。

そもそも音楽だけに限らず、「日本と韓国」という国で対比させて考えるのではなく、日本にも東京があって、大阪があって、沖縄があってそれぞれの街に個性があるように、その延長で単純にソウルという自分の住んでいる場所とは違う文化を持った面白い街があり、そこに面白い個人が沢山いるだけだという気持ちでいられたらいい。同じようなことはどこの国に対しても思うし、これから韓国以外の海外でライブをする機会もあるかもしれないが、「世界で一旗あげる」とか「海外進出」みたいな大それた話を掲げるよりも、ちょっと馴染みの街やお店を一つ増やすくらいのスタンスが自分にはちょうどいい。きれいごとを言っているように思われるかもしれないけど、音楽は言葉にできない抽象的な要素が多いぶん、様々な壁を飛び越えるきっかけになると思っている。今回はそれが実感できた旅だった。

帰国後も、韓国のDJソウルスケープの来日公演に遊びに行ったり、韓国の人気バンドのチャン・ギハと顔たちのメンバーでもある長谷川陽平さんと〈オルガンバー〉で僕が定期的に行っているDJイベントで共演した。ソウルで感じた熱は、東京での日常にも程よく尾を引いている。

〈新都市〉の屋上にて

VIDEOTAPEMUSIC
閉店したレンタルビデオや実家で忘れられたホームビデオなど、様々なビデオテープをサンプリングして映像と音楽を制作。VHSの映像とピアニカを使ってライブするほか、MV制作、DJ、イベントオーガナイズなど、活動は多岐に渡る。
2016年には盟友ceroとのコラボレーション編成「VIDEOTAPEMUSIC×cero」としてフジロックフェスティバルに出演。12月に坂本慎太郎との共作『バンコクの夜』(em records)、2017年1月には『Kung-Fu Mambo』(雷音レコード)をリリース。2017年10月に発表した3rdアルバム『ON THE AIR』が各方面で好評を博している。


写真・文=VIDEOTAPEMUSIC
取材・構成=中野 由佳
企画=安東 嵩史 (TISSUE Inc.)

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