インディーの聖地・弘大(ホンデ)を歩いて—— VIDEOTAPEMUSICの韓国・ソウル公演日記(前編)

1980年代に生まれ、西東京の街で育ったVIDEOTAPEMUSICは、幼き頃から自宅にあったVHSやビデオカメラに興味を示し、収集した古今東西のVHSをサンプリングしながら音楽活動を始めた。近年、カクバリズムよりリリースしたアルバム『世界各国の夜』『ON THE AIR』はロングセールスを記録。ライブハウスとクラブ、メジャーとインディー、どちらかに活動の比重を置くのではなく、むしろ双方の架け橋のようなポジションで独自の音楽を作ってきた。

今年1月末、VIDEOTAPEMUSICは鍵盤奏者・エマーソン北村とともに韓国・ソウルでのライブを敢行した。これまで、いくつかの韓国インディーバンドやK-POPには触れてきたが、渡韓は初めてのこと。4日間の滞在を振りかえりながら、同時代に活動する日本人アーティストとしての視点で、新しい音楽の隆盛期を迎えつつある韓国音楽シーンのことを考察してくれた。

Fiction Romance / VIDEOTAPEMUSIC

1月18日(木)「音にあふれる街、ソウル」

仁川空港に着いてから入国審査を受けるまで時間がかかってしまった。

到着予定時刻を1時間近く過ぎ、やっとのことでエマーソン北村さん(以下、エマさん)とゲートを出ると、今回のオーガナイザーのゴさんがイラスト入りのウェルカムボードを持って立っている姿が目に飛び込んできた。これを持って1時間も待っていてくれたのか。思いがけず、感動。挨拶を終えた僕らは、2回のライブを行う街、弘大(ホンデ)へと向かった。

仁川空港からソウル市西部の弘大へは車で1時間ほど。タクシーに乗り空港周辺の工業地帯を抜けると、徐々に都会の街並みが見えてきた。縦に細長く伸びたマンションや高層ビル群のフォルムは日本で見慣れたものと少し違って見える。市内に近づくにつれカラフルなハングルの看板やネオンも目に入ってきて、無機質な高速道路の風景が次第に色を帯びてくる。視覚的にソウルの空気を受け取り、異国にやって来たことを実感。

弘大のライブハウス〈空中キャンプ〉の入口

ホテルのチェックインを済ませた後、ライブ会場の〈空中キャンプ〉へ向かった。店名はもちろん、日本のバンド、フィッシュマンズのアルバムタイトルから。フィッシュマンズのファンコミュニティで出会った人達で運営しているらしい。ここは日韓のインディーシーンを繋ぐ場所と聞いていたので、ずっと訪れたいと思っていた。キセルやAlfred Beach Sandalといったよく知るアーティストも過去に出演している。

実は、海外公演は今回が初めて。韓国と日本は時差こそないけれど、電圧が違うので機材周りが少し心配だった。一方で、エマさんはキセルのサポートメンバーとして、そしてソロでも2度、ここで演奏をしている。エマさんは「いつもなんとかなっている」と言っていた。共演者であり、心強い旅の先輩だ。

〈空中キャンプ〉に行って思ったのは、一般的なライブハウスの雰囲気とは少し異なるということ。壁にポスターやフライヤーが貼ってあるのは珍しくないけど、大きめの棚があって、本やCD、VHSを誰でも手に取れるようになっている。よく見ると、『COMIC CUE』のような日本の漫画雑誌もあれば、マルクスに関する書物などもあるのが印象的だった。ある種の部室やサロンのような場所で、ここに集まる人達は自分が好きなものを誰かとシェアしにきている。そんな風に感じた。ちなみに、ゴさんは日本語がとても上手い。お陰で、僕らは何不自由なくコミュニケーションを取ることができたのだけど、なぜそこまで上達したのかと尋ねたら、やはりフィッシュマンズだった。彼らの歌詞で勉強したら日本語が偏る気がするけど、まず先に音楽に興味を持ち、そこから歌詞の意味が知りたくなったそうで、それって自然な流れでいいなあと思った。

会場を下見した後、ゴさんと同じく〈空中キャンプ〉のスタッフの中心メンバーのひとり、ジョウンさんも合流してサムギョプサルを食べた。サムギョプサルは豚のバラ肉。ちなみに韓国ではコッテギという豚皮も珍味として食べる人が多いそう。グリルで豚皮を焼いた後、きな粉につけて食べるのは衝撃だった。分厚い豚皮は独特のプリプリの食感で美味しかった。

弘大と新村(シンチョン)の境にある焼肉通りの店

ライブは明日からなので、夕食の後、一人で弘大の街を散歩した。街の空気を自分に馴染ませたかったからだ。極寒と聞いていたけど、僕がいた週末は運よく暖かかったし、サムギョプサルやチゲをお腹いっぱい食べて温まった体には外の冷気がむしろ心地よく、足取りも軽くなる。見知らぬ土地でも通りに見えるセブンイレブンやミニストップ、チェーンの飲食店は見慣れた東京の景色のようで、正直ほっとした。遅い時間まで若い子が行き交っているし、店や路上の屋台は0時くらいまで営業している。夜のピークタイムが日本より遅いように感じた。時間感覚が少々ずれ、パラレルワールドにいる気分。流行っているのか暖かそうなロング丈のダウンを着た人が多く、みんな寒さをものともせず元気だ。

アパレルショップも遅くまで営業していて、外までBGMがガンガン鳴っている。EXOやテヨンみたいな日本でもよく知られているものから、まったく聞いたことのないものまで、街中で流れる様々なK-POPが新鮮でついつい立ち止まってShazamで検索してしまう。弘大の街では、最新のK-POPと同列にアリアナ・グランデのような欧米のポップスも流れているし、それらに混ざって自然にYaejiの曲なども流れていた。路上で「よさそうなK-POPが流れているな」と思ってShazamしたらマルーン5だった時はずっこけたが、まさかの欧米の曲がK-POPに聴こえてしまった逆転現象に、それだけサウンド的にも欧米の音と違和感なく溶け合っているのかもと思った。

Raingurl / Yaeji

コンビニの雰囲気は日本と似ている。イートインできるところも多い

1月19日(金) 「ライブ1日目 海外初公演の夜」

昼に機材を持って〈空中キャンプ〉へ。その後、ランチでタッカンマリを食べてコラーゲンを大量摂取した。韓国の女の子が美しいのは、こういう食生活のお陰なのか。リハの後、ライターの松永良平さんが合流したので一緒に近場を散歩することに。ぶらぶらと歩いていたら、看板を出さずにひっそりと営むレコード屋〈Office Alouette〉を見つけた。いいレア盤を比較的高値で売るお店、という印象を受けた。和モノからイタリアのポルノのサントラなど、結構マニアな品揃えだった。松永さんが「こういうレア盤を若者は買いますか?」と尋ねたら、「NO!オヤジ」と日本語で返ってきた。ここの店主は和モノの買い付けでよく福岡に来ているらしい。店内にはキセルのCDも置いてあったので、同じレーベルのカクバリズムに所属していると伝えたら、僕のことも知ってくれていて話が少し盛り上がった。古い韓国のレコードは置いていないか尋ねたが、ここでは扱っていないとのこと。他のレコード屋でも今はほぼ高額のレア盤か、安くてもコンディションが悪いもののどちらかしかないと言われてしまった。レコード屋だと、この日は〈キンパプレコード〉にも行ったのだが、残念ながら閉まっていた。店主がインフルエンザだったそう。こちらは新譜が中心らしい。

弘大の街はとにかく若者の熱気がすごい。路上でパフォーマンスをしている10代〜20代前半くらいのアイドル(もしくはダンサー?)予備軍の集団には、同じ歳くらいの見物客が大勢取り巻いていた。ストリートミュージシャン達もよかった。

現代の竹の子族? 弘大の路上パフォーマー達

「空中キャンプ」に戻り、ライブが始まった。トップバッターのキム・モッキンさんはフォークシンガー。イケイケな若者達を見た直後だったから、温かくもストイックな弾き語りを観て落ち着いた。お客さんから合唱も起きていていた。ゴさんが言うには、歌詞も素晴らしいそう。DJはソウル在住日本人のシンジさん。選曲はレゲエやダブが中心だが、どこかアジアっぽかったりエキゾチックな響きのものも時折差し込まれる。僕のライブの直前にはJackie Mittooの大好きなナンバー「El Bang Bang」がかかって嬉しかった。

Tree Lined Road in a Dream / Kim Mokin

El bang bang / Jackie Mittoo

エマさんの演奏で会場が温まり、自分の出番になった。ゆっくりとムードを作っていこうと思い「On The Air」という最もスローな曲から始めたのだけど、予想にも曲調にも反して初めからとてつもない歓声が上がり、その盛り上がりに驚いた。お客さんのエネルギーがすごい。次の「Sultry Night Slow」では、フィッシュマンズの「いかれたbaby」のフレーズをマッシュアップして弾いた。〈空中キャンプ〉に集う人達にとって、フィッシュマンズは神のような存在。名曲の力を借りて、完全にお客さんと打ち解けた。2曲目にしてピーク。曲を聴き込んでくれているんだろうか、メロディーを口ずさんでいる人もいた。僕のCDを販売している店はソウルにはないはずだけど、持っているCDにサインを書いて欲しいというお客さんが何人かいた。日本で購入したのだろうか。

終演後はそのまま会場で打ち上げをした。エマさんのファンだという女の子がホールケーキをプレゼントしてて、そういう光景は日本では珍しいのでよいなあと思った。ビールを飲み、みんなでケーキを食べた。「今日のライブが最高だったから、明日はもういい!」と、ゴさんは嬉しそうだった。よかった。

ライブ主催者のゴさん

日本から遥々やってきた、エマさんの迷路の絵とモジュラーシンセ

帰り道の本 / エマーソン北村

〈空中キャンプ〉のバーカウンター。スタッフや常連さん達と

食事をしていなかったので、近くの焼肉屋へ移動してマッコリとサムギョプサルをオーダーした。0時をまわっていたけど、この時間でもしっかりと夕食が食べられる場所があるのは羨ましい。

ゴさんと飲みながら、色々な話をした。フィッシュマンズとの出会い、〈空中キャンプ〉裏の再開発を阻止するために行ったデモのことなど。弘大周辺の街並みもここ数年の再開発でだいぶ変わってしまったそうだ。「韓国は90年代くらいまで学生運動が盛んだった。昔は火炎瓶だったものが、今はキャンドル(を持ってデモをするよう)になった」とゴさん。最近の音楽シーンに対しても思うところがあるみたいだ。音楽だけでなく彼らを取り巻く政治的な状況なども、まだまだ勉強不足で知らないことばかりだけど、興味深く話を聞いた。

話をライブに戻すと、エマさんはゴさんからの依頼で日本から一枚の絵を持って来ていた。(フライヤーのデザインにもなっている)この絵は、電気を通すインクで書かれた迷路のようなもので、それをモジュラーシンセに繋いだ電極でなぞることで音が変化する。視覚的にも聴覚的にも面白い。そんなオリジナルの迷路シンセで演奏する曲に関してエマさんは「この曲は国会議事堂周辺のデモで歩いた坂道をイメージしている」と言っていた。ゴさんや周りのスタッフがエマさんを慕っているのは、音楽性や人柄が素晴らしいからだけじゃない。音楽家として社会を見つめ、自分なりの表現で勝負している。その姿にみんなは共鳴しているのだ。エマさんやキセルが〈空中キャンプ〉で何度か演奏をして現地の人達と関係性を築き、土壌を作っていてくれたからこそ、僕も多くの人にライブを観てもらえた。そんなことを思いながら、2日目の夜が更けていった。

エマさんの迷路の絵がモチーフになったフライヤー

(後編へ続く)
言い切るのではなく、無数のレイヤーを感じること——VIDEOTAPEMUSICの韓国・ソウル公演日記(後編)

VIDEOTAPEMUSIC
閉店したレンタルビデオや実家で忘れられたホームビデオなど、様々なビデオテープをサンプリングして映像と音楽を制作。VHSの映像とピアニカを使ってライブするほか、MV制作、DJ、イベントオーガナイズなど、活動は多岐に渡る。
2016年には盟友ceroとのコラボレーション編成「VIDEOTAPEMUSIC×cero」としてフジロックフェスティバルに出演。12月に坂本慎太郎との共作『バンコクの夜』(em records)、2017年1月には『Kung-Fu Mambo』(雷音レコード)をリリース。2017年10月に発表した3rdアルバム『ON THE AIR』が各方面で好評を博している。


写真・文=VIDEOTAPEMUSIC
取材・構成=中野 由佳
企画=安東 嵩史 (TISSUE Inc.)

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