大石始による韓国音楽プレイリスト「ソウルのエモい夜」

日本各地を回って祭り、盆踊り、民謡を取材し、そうしたローカルな音楽の背景を書き留めているライター・編集者の大石始。DJソウルスケープの来日公演にも関わるなど、韓国やアジア各地の音楽全般を関心領域とする彼による、今昔の韓国音楽を集めたプレイリスト。絶えざる変化とストリートレベルの不変、その両極を詰め込んだ街・ソウルの魅力を、ここにある音楽から感じてほしい。

大石始のコメント
ソウルを初めて訪れたのは1990年。僕はまだ中学生だったけれど、その時感じた「東京とは違う何か」というぼんやりとした空気感は、今もはっきりと覚えている。その後幾度となくソウルに足を運ぶ中で、その感覚が夜のソウルが持つ独特の情緒、言ってしまえば夜のソウルの「エモさ」みたいなものと結びついていることに気づいた。ソウルの街並みもずいぶんと変わった。だが、そこに流れるブルージーなムードは今も変わっていないように僕には思える。そんなソウルのエモさを詰め込んだ楽曲をセレクト。ソジュでもチビチビやりながらどうぞ。




1. Sunset / Jang Hyun
いつもと変わらない夜がまたやってきた。切々とした思いを歌い上げるのは名歌手のチャン・ヒョン、バックに従えるのは大韓ロックのゴッドファーザー、シン・ジュンヒョン先生。1972年に吹き込まれた奇跡の1曲。先日ソウルでこの曲を収録したチャン・ヒョン&ザ・メンの復刻版LPを手にしたときは、興奮で手が震えた。長谷川陽平さんに感謝。

2. 街角で / Parasol
シン先生やサヌリムなど諸先輩方から受け継いだものを、現代の韓国インディーの感覚によって蘇らせる3人組。音の隙間に滲むのは、あの夜感じたソウルのエモーション。またいつもの街角で、いつもの物語が始まる。

3. I’m Watching A Loneliness Just Arisen / Se So Neon
Lonelinessを遠ざけるのではなく、Lonelinessと向かい合い、愛することで生まれてくる歌が韓国にはいかに多いことか。韓国インディーにおける新生代のルーキーと評されるセソニョン。引きずるようなサウンドに込められた情感とその濃密さにクラクラしてくる。

4. Until I’m 88 Years Old / Kim Ildu
彼はソウルではなく、釜山をホームとするシンガーソングライター。日本でそのライヴパフォーマンスを体験した時は、本当に驚いた。港町ならではの荒々しさと優しさがまるで濃厚な出汁のように効いた、塩分強めのロンサム・ブルース。

5. TomBoy / Hyukoh
彼らには幸運にも一度だけ取材したことがあるけれど、4人ともスターの座に登り詰めたバンドのメンバーとは思えないほど繊細だった印象がある。そんな連中からこれほどまでに胸を打つバラードが届けられるとは。ソウルでタクシーに乗車した際、ラジオからふとこの曲が流れてきて涙したことがある。

6. Up All Night feat. Tablo / Lee Hi
YGの秘蔵っ子として今年日本デビューも飾ったイ・ハイ。オーディション出身にありがちな力技系ではなく、抑制の効いた歌唱をしっとり聴かせるところに実力のほどが窺える。こういう本格派がメジャー・シーンのトップで活躍しているところにも韓国音楽界の凄さがあると思う。

7. D (Half Moon) ft. Gaeko / Dean
ある種の虚しさ、やるせなさを綴った歌詞にまず引き込まれる。満たされない思いを「きっとうまくいく」などと簡単に肯定するのではなく、満たされないままで放り出す。そこに生まれるエモーション。ディーンの歌唱の素晴らしさは言わずもがな。

8. Young / Zion.T, Crush
時間でいえば深夜2時すぎ。誰かに会いにいく道中というよりも、別れて自宅に向かうタクシーのなか。3年以上前の曲だが、夜のソウルを移動していると今もこの曲のピアノのメロディーが脳内再生されることがある。

9. Habit / Kim Gun Mo
説明不要の大歌手、キム・ゴンモ。ダンス・ポップとレゲエとバラードを乗りこなす90年代の初期作品も好きだけど、円熟味を増した2000年代以降の作品にも意外な名曲が隠れている。これは2005年の『Be Like…』収録曲。

10. I Remember (Feat. Kensie & Asoto Union) / Epik High
本当はアソト・ユニオンの“Think About 'Chu”(2003年)をここに入れたかったのだが、Spotifyになかったため、そのアソト・ユニオンがバックを務めたこの曲を。人がまばらになった朝方のフロアで聴きたいメロウ・グルーヴ。

11. The Sun / Kim Jung Mi
夜が明け、また昨日と同じ朝がやってきた。キム・ジョンミによる韓国産アシッドフォークの傑作『Now』(1973年)に収録されたこの曲がラスト。冒頭曲同様、こちらもシン・ジュンヒョン先生のプロデュース曲。韓国歌謡界がもっともサイケデリックだった時代の貴重な記録である。


写真=熊谷 直子

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