「性」の表現者たちは韓国社会をどう戦っているか?(1)
アイデンティティこそが美しさーードラァグクイーンで「人間の美」に挑む。moreの場合

「#metoo」運動をきっかけに、女性に対する差別意識について、日本でも改めて注目が高まっている昨今。写真家の荒木経惟など著名人も告発を受けるにいたって、セクハラとは何か、そして性表現とアートの関係について考えさせられる場面も増えている。

韓国でも女性検事の内部告発をきっかけに広まった「#metoo」運動は大手企業や政治界に留まらず、映画監督や俳優、詩人、演出家など芸術分野においても多数の告発が起こり、大規模なデモが起きるほどの社会問題となった。昨年は同性愛を禁止している軍隊の中で同性愛者の一斉摘発を行ったことに対して大きな社会的批難が起きた他、ゲイであることをオープンにした初のK-POPアイドルHollandのデビューや、Korea Queer Culture FestivalというLGBT支援イベントには過去最大の3万人が参加するなど現在韓国においても多様なセクシュアリティを認める動きや性差別問題に対する社会の関心が高まっている。

その論議は日本より保守的な一面も、日本より進んでいる一面もあり、必ずしも同質ではない。セクシュアリティを取り巻く規制や圧力、差別意識は国や地方によってボーダーラインが違うとはいえ、結局は個人の享受する意識によって大きく見方が変わるものでもある。そんなふうに、タブー視されてきたものが当たり前になり誰かのセクシュアリティを抑圧しない社会を目指し、アートの分野から戦いを続ける2組の表現者に、その現在地について話を聞いた。

クラブカルチャーの盛り上がりと共に若者に「かっこいいもの」として浸透している今の韓国のドラァグシーン。『キンキーブーツ』や『プリシラ』などドラァグを題材にしたミュージカルも次々に人気公演になっている。そんな中、ドラァグクイーンとして第一線で活躍し続けているmoreは、本格的なバレエを基礎にしたダンスショーで多くの人の心を掴む、ドラァグクイーン界のスターだ。ファッションブランドのコレクションでのダンスショーや、ミュージックビデオの出演の他、雑誌の表紙を飾るなどその表現者としての活躍の場はドラァグのみにとどまらない。そんなmoreに、現在の韓国において「ドラァグクイーンであること」とはどういうことか、話を聞いた。

チケットは毎度完売! 韓国で盛り上がるドラァグシーン

ーー自己紹介をお願いします。

こんにちは。平凡できれいなドラァグクイーン ・モオ(more)です。

ーードラァグクイーンとして活動を始めたのはいつからですか?

2000年。梨泰院(イテウォン=ソウルの代表的繁華街の一つ)に新しくオープンしたoh lalaというアダルトショークラブ(主に日本人観光客を相手にする)でドラァグクイーンが必要だというので、偶然やるようになりました。
残りの共演者は普通の格好で、ドラァグクイーンは私を含めてたった二人でしたが、私がそこで公演していた頃は「ドラァグ」という言葉にまだ馴染みがなかったので、「女装した男性」程度の扱いを受けていたように思います。

ーー日本では、ドラァグクイーンと言えば新宿二丁目というようなイメージがありますが、韓国にもそのようなスポットがありますか?

代表的なのは、1995年に梨泰院にオープンしたTRANCEというお店ですね。数年前にシャネルのプライベートパーティーが行われたほど、国内では唯一無二のクラブです。
古い歴史と共に、ハリウッドスターだけでなく、国内の数多くの芸能人も訪れる、韓国のドラァグショーの名所です。『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェルが訪問した時は、とても感動しました。

ーー公演を見に来るお客さんはどんな人が多いですか?

場所によって異なるのですが、ゲイクラブでは99%がゲイだとすれば、TRANCEという場所は、99パーセントが一般的なヘテロセクシャルです。ファッション業界や芸能界の方だけでなく、ドラァグクイーンをトランスジェンダーと誤解する、極めて一般的な人たちもたくさんいらっしゃいます。

ーー韓国で、ドラァグクイーンの認知度は高いですか?

アメリカの人気オーディション番組『ル・ポールのドラァグレース』に韓国系ドラァグであるKim Chi(キム・チー)がファイナルまで進出したこともあり、現在、若者の間ではドラァグブームです。

私がドラァグを始めた時からは想像もできない程多くの人々がドラァグについて正確に知っていて、もうただの女装とみなされるものではなくなっていますね。定期的に海外のドラァグクイーンの招待公演も行っていてファン層も厚く、毎回チケットが完売するほどの盛り上がりを見せています。
長い間ドラァグをしてきた私にとっては、喜ばしいことに違いないですね。

最近では、ミュージシャンのイ・ランのミュージックビデオ「私はなぜ知っているのですか」やシン・セハの「tell her」にも、私を含むドラァグクイーンが美しく登場しています。

Xin Seha (신세하) "Tell Her”

セクシュアリティ表現はLGBT/Qの重要な戦い方

ーー国内外での公演を通して、何か違いを感じる部分はありますか?

昨年の東京での公演では、韓国とは異なり、公演を静かに観覧する日本人の姿が、非常に見慣れない光景でした。韓国では、観客は常に賑やかな歓声や声援を送ってきますからね。でも、そんな沈黙の反応も私には面白いです(笑)。すべての公演に興奮したり、必ず反応する義務はないと思いますね。何を感じるのかは各自の役割であり、他者の反応を気にすることなく行動することが、今はもうとても自然で快適なことなのだと思います。

ーー韓国の性的マイノリティを取り巻く状況については、どうお考えでしょうか?

自分自身、GENTLE MONSTER(ジェントルモンスター)という韓国発の世界的サングラスブランドの2018年春夏コレクションでドラァグとしてオープニングパフォーマンスをしました。また、複数のメジャー・インディーズのミュージシャンとのコラボレーションや、別のジャンルのアーティストとの作業も進行中なんです。
毎年6月になると「Seoul Queer Culture Festival」や、その中で行われるクィア(性的少数者)によるパレードなど大なり小なり、それに関連したイベントが多様に行われており、それを見る一般の人々の視線も肯定的である事から、性的マイノリティに対する認知は広がっていると思います。

ーーセクシュアリティをテーマにしたアート表現についての考えを教えてください。

昨年、東京に行った時、東京の関係者の方から、日本のドラァグシーンが過去に比べて大幅に縮小したと聞きました。韓国では逆に、わずか数年の間にLGBT/Qに関する議論が大きい分野で成長したこともあってかなり多くの分野でドラァグが登場しており、制約や規制もまだ全く感じたことがありません。

セクシュアリティをアートにすることは、LGBT/Qにとって切っても切れない最も重要な表現法であると非常に肯定的に考えています。大型ミュージカルでもLGBT/Qを題材にした作品が毎年溢れており、ヒットしています。たぶん、1ヶ月後にはテレビでもLGBT/Qを毎日見ているだろうという感じがしますね(笑)。

アイデンティティは誰も否定できない美しさ

ーー衣装とヘアメイクにアイデンティティがありますか?

私は主に、花を服に取り付けたりヘアピースとして着用することを楽しんでいます。

ガートルード・スタインが言ったよう「rose is a rose is a rose、バラはバラであり、バラはバラである。」私の人生はバラであり、バラが私であり。だから、私のアイデンティティは、バラのような花だと思います。

その他に、生活用品を主に応用する方なのですが、タオルや食卓のテーブルクロスなどをオブジェとして頭に着用したり、ロープをぐるぐる巻いてヘアのように見えるようにするのが、私の好きな方法の一つです。

メイクアップは、以前は目も唇もゴス族のように黒く恐ろしくしていたんですが、今は頬も口も目も全部赤系で、人間に優しい感じ(笑)のドラァグ・メイクを楽しんでいます。

メイクはきっと、私が自分自身を花として見せるための、コンテンポラリーなアーティストとしての意地の見せ所なのだと思います。絶対的なアイデンティティは、誰も否定できない美しさです。

ーーセクシュアリティやLGBT/Qをテーマに活動・表現をしている方で、注目していたり、影響を受けた方はいらっしゃいますか?

私のインスピレーションを受ける方は、主にミュージシャンたちです。
グレイス・ジョーンズ、ケイト・ブッシュ、ジョニ・ミッチェル、ビョークなどなど……これらの人々からは、私がドラァグとして成長する中で多くの影響を受けました。
アレキサンダー・マックイーン、ジャン=ポール・ゴルチエといったファッションデザイナーたちからもインスピレーションを受けています。

ーーこれからドラァグクイーンとして実現したいこと、表現したいことがあれば教えてください。

私の専門である舞踊を生かして、ドラァグをショー形式の公演だけでは収まることのできない完全な芸術の一つのジャンルとして位置付けたいです。そのために、舞踊とドラァグをよく組み合わせ、さまざまな写真、映像などの視覚表現の制作と公演をしたいですね。

最近、新たに始めたポールダンスとフラメンコダンスを応用したショーや、韓国の伝統的な音楽、西洋のクラシックミュージシャンたちとのコラボレーションも企画中です。
この5月には、フランスでパリのインスタレーション芸術家と企画した展示を行う予定で、その準備中でもあります。また、現在、ヨーロッパで活発に活動しており、フランスのテアトル・ド・ラ・ヴィル常任振付師であるアン・ウンミカンパニー舞踊団との作業も予定されています。多くの人に、これから私が挑戦することへの関心を持ってほしいですね。

最後に、私がいつも最終的に表現したいのは、ドラァグは美しい一人の人間だという事です。


写真=Lee Jeongmin
ヘア&メイク=Gu SungEun
取材・文=Tanaka Erina(Erinam)

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