イ・ランが語る、これからの社会と表現のゆくえ「私たちの世代は、私たちに合ったシステムを作り上げなければ」(前編)

2016年6月に発表したセカンドアルバム『神様ごっこ』が高く評価され、韓国のみならず日本でもファンを増やしているシンガーソングライター、イ・ラン(Lang Lee / 이랑)。歌詞に込められた独特のユーモアとシニカルな視線、そして観客ひとりひとりを魅了する深みのあるパフォーマンスが、幅広い世代の共感を集めている。今年に入って発表した『イムジン河』(ザ・フォーク・クルセダーズによる日本語詞バージョン)のカバーに触れて、彼女を知った人も多いことだろう。

そんなイ・ランはミュージシャンとしてのみならず、映像作家、エッセイスト、漫画家としても多彩に活動。世代間のギャップや社会格差、言語、性別など韓国社会に存在するあらゆる問題意識に向き合い、表現を繰り広げている。今年3月には日本でのツアーも控えている彼女に、活動の変化、『イムジン河』のこと、そして彼女が向かおうとする場所について話を聞いた(2018年1月、『世界中の人々が私を憎みはじめた』のMVが撮影された雨乃日珈琲店にて)。

世界中の人々が私を憎みはじめた / イ・ラン

既存のシステムはもう私たちにはマッチしない

――最近どのように過ごしていますか?

年末からずっと家で寝ていました。これまで忙しすぎて燃え尽きたんです。『あしたのジョー』の最後のシーンみたいに。

――作品は作っていないんですか?

準備はしているけど、まだこれからです。次の映像作品のプロジェクトについて話し合っています。
去年、大企業と仕事して、それが「ジゴク」(日本語でこう発言)だった。ウェブドラマの監督をしたのですが、大きい会社のお金で仕事するのは良くないなと思いました。今は、新しい方法を探そうと企画しています。

――新しい方法とは? 大きな仕事をして大きなお金を稼ぐのではなく、お金は少なくてもインディペンデントで活動する方がいいということですか?

大きい会社と仕事をしても、大きいお金は入りません。私はフリーランサーで1回きりの契約だから、期間が長くなっても1回分のお金をもらうだけ。細かいことまで決まっていて、お金のチョイスに私がついていく。俳優と個人的に連絡するのも難しく、台本についてもスポンサー次第であれを抜け、あれを入れろと。とても制約が多いです。私がオリジナルの脚本を作ったわけだから、我が子がちゃんと世に出ればと思うのだけど、残忍に壊されていく。その子を最大限守るために、したくないことをし、「分かりました」と社交的なふりを続けるのはジゴクでしたね。

――既存の方法ではなく、新しい方法を探すべきだと思ったということですか。

そうです。その仕事が終わった後も、企業からすぐ新しい依頼が来て、何度かミーティングしました。でも「これは違う、全然やりたくない」と思い、新しい企画を考えているところです。
それは「自分のチャンネルを作ろう」ということです。ドラマを制作する仕事は、最初から放送されるチャンネルが決まっていて、そこに入って既存のシステムに合わせなければいけない。そうではなく、新しいシステムを作ろうと考えています。とはいえ私のお金でできるサイズではないので、いろんなところに私のチャンネルを提案することになります。テレビ局から声がかかればそこで放送するだろうし、Youtubeから声がかかればそこで放送するだろうし。

韓国では最近、YouTuberのような1人メディアが人気です。最近の若い人たちはテレビをあまり見ませんし、バラエティもドラマも常に男性視点で、そこにもギャップを感じています。だから、自分の話ができる1人メディアに共感が集まるようです。
だけど、私がしたいのは、ストーリーを作ること。私がカメラの前で座って話すのではなく、ある状況のもとで俳優が演技するスタイルが面白いと考えているので、それと1人メディアの中間を作ろうと考えています。
普通はストーリーを作って、既存のシステムに見せてOKが出れば、そちらのシステムに合わせて制作することになります。でも、自分でチャンネルを作るのなら、システムに合わせる必要はありません。特に、既存のシステムは年上のおじさんたちが作ったものじゃないですか。彼らがOKして初めて若い人が制作できるというのも変です。だから私が新しい方法を作り、提案してみようと。

――どんな作品になりそうでしょうか。

今のテレビには庶民的・日常的なものが出てきません。だから変なんです。私が以前作ったシットコム(*1)ドラマ『神イエスと共に』では私たちの日常に起きる出来事を描きましたが、そうしたものはテレビには放送されません。メインストリームの女優たちは、朝目覚める場面からフルメイクです。家の構造も変ですよね。書斎がありお手伝いもいる家なんて見たことないですし、そういうセットで行われる恋愛や家庭の物語にはとても違和感を覚えます。でも、システムの中の人は「テレビに映すならこれくらいでなければだめだ」と考えるようです。

アイドルもそう。アイドルは常にかわいく美しくて、礼儀正しく、朗らかに笑って、いつも正しい考えをしているように見せるじゃないですか。でもそれは庶民的・日常的ではない。昨年、大企業のもとで作ったウェブドラマも、最初は庶民の物語をファンタジーと絡めて描こうとしたのですが、話を進めるうちに俳優は全てアイドルや芸能人、朝起きてもフルメイクの人々になってしまいました。本当は、いつも一緒にやってきた友達に出てもらいたかったんです。彼女たちの物語を書きたかったから……。でも、一人も受け入れられなかった。

*1 シチュエーションコメディの略。とある状況に置かれた役者たちの演技で笑い誘う、アメリカ風のコメディ。

ドラマ『神イエスと共に』

アイドルというシステムをなくしたい

――2017年にあったことを聞こうと思っています。『神様ごっこ』を出した後に、どのような変化がありましたか。

変化は誰でもありますよ。みんな毎年変化しています。

――韓国内での人気も高まりましたよね。また、以前よりも、社会的な活動や発言が増えています。

ファーストアルバムを27歳の時に出したのですが、その時は家族と恋愛の話が中心でした。今や30歳も過ぎ、世代間のギャップや階級の問題について向き合うことになるわけじゃないですか。当然、できる話も変わってきます。同時に共感する人も増えるわけです。
私は庶民的・日常的な話をすくいあげる作業をしています。20歳でも40歳でもずっと恋愛をテーマにするアーティストもいますが、恋愛の話だけをする人は、ちょっと変ですよ。変なドラマの、変な恋愛シーンを見るているよう。

同じ意味で、私はアイドルというシステムをなくしたいと考えています。アイドルそのものは、美しくてかっこいいし、楽しく見ることができて好きなのですが、日常的ではない嘘のドラマを見て、恋愛について変なイメージを持ってしまうように、私たちもアイドルのようにならなければならない、行動しなければならないという、変なイメージを押しつけられてしまいます。

そして、アイドルは社会的な話をすることができません。いつも若いアイドルだけが登場して、「応援してください」という話や、愛についての話だけします。それは私が中学生の時も今も変わりません。アイドルはどんどん変わるのに、話す内容はみんな同じ。社会が変わってもずっと話すことが同じというのはおかしい。だからなくさないと。

私はアイドルたちと何度か一緒に仕事をして、その人たちがいかに人間的に暮らしていないかを実際に見てきました。自分の考えを話せず、恋愛するところも見せられない。日常を見せてはいけない職業が、何故この社会にあるのだろう。特に女子に対しては厳格じゃないですか。本当に変だと思います。

――引き続き、2017年の話を聞きたいと思います。11月に、『神様ごっこ』のエッセイ(アルバムには音源だけでなく約100ページのエッセイも収録されている)に続く最後の2ページを追加した意図は何だったのでしょう。

その時は大きな会社でのドラマ制作で、頭がおかしくなりそうでした。そんな時、曲入れ作業のために音楽をたくさん聴いたのですが、K-POPを聴いていたら本当にいいんですよ。「そういえば、ずっと音楽を聴いていなかった。音楽はこんなに良いものだったのか」と思いなおし、ライブをしたいとパク・ダハム(ソウル乙支路にある「新都市」というDJバーの主宰。ライブのオーガナイザーでもある)に連絡しました。それが11月に韓国で単独ライブをした理由です。しかし精神状態がジゴクだったので、ライブ中に感情が揺れて大変でした。

「前回の『神様ごっこ』を掲げての単独ライブは1時間30分だったから、それより30分多めに演奏しなければ」という意識がありました。そこで朗読をしようと考えたのですが、『神様ごっこ』は2016年に出たものだから、その中からだと退屈。そこで、新しく書くことにしました。

――最後の2ページは日本のライブでも朗読しますか。

そうですね、してみようかな。

音がなくても意味が伝わる世界に興味を持った

――『イムジン河』のカバー、日本でも話題ですね。

はい、ベルク(新宿駅にある喫茶店)でも流れたと聞きました。

――日本語で歌った理由は?

まず『イムジン河』を歌った理由なのですが、この曲にまつわる展示を計画していた美術家の方(ナム・ファヨン)が、彼女の映像作品に、私が歌う『イムジン河』を入れたいと提案してきたのがきっかけです。他の人に依頼されて他の人の歌を歌うのは好きじゃないので断ろうとしたのですが、日本人の友達に『イムジン河』を知っているかと聞いたら「知っている、とても有名」だと言うんです。

イムジン河 / イ・ラン

――この歌の、韓国での知名度はどれくらいのもの?

韓国では、ほとんどの人は知りませんよ。なのに、いろんな日本の友達に聞いてみたら、みんな知っていて不思議だなと思いました。説明を聞いたら、朝鮮半島が分断された後に、北朝鮮にいる人が作った歌だということでした。それを在日朝鮮人が朝鮮学校で歌い、その後ザ・フォーク・クルセダーズが歌ったけれどレコード会社の自主規制で発売中止となり、でも今は普通に歌えるようになった——という経緯に興味が沸いて、OKを出しました。

韓国語バージョンと日本語バージョンの二つを録音したのですが、どちらの歌詞にも背景にストーリーがあるから混ぜて歌うのが面白いだろうと思い、練習する時は混ぜて歌っていました。録音したものを作家に提出し、公開の同意も得たので、最初はサウンドクラウドに韓国語バージョンと日本語バージョンの両方をアップしようかと考えたのですが、でもやはり混ぜて歌いたい。再び録音はできないから、どうしたら言語的なレイヤーを表現できるか考えました。そこで、日本語詞を韓国語に翻訳して、韓国語手話を交えながら歌うことを思い立ちました。韓国語歌詞と日本語歌詞、そして韓国語の手話と日本語の手話は少しずつ違うので、その表現に適していると思ったんです。

――以前から耳の不自由な方と付き合いがあったと聞きました。

昔から手話が好きだったんですよ。学校で歌を歌っていた時に、私の横でジャンベをたたいてくれた女の子の友達がいて。彼女はとても個性的でした。話す時はジェスチャーが多く、表情も豊かで。聞いてみたら、彼女のご両親がふたりとも聴覚障碍者で、いつも手話で話すのだそう。手話と言えば手だけで話すものだと思っていたのですが、表情とセットでなければ伝わらず、そのため自分も表情が豊かになったと言っていました。

それからこんな話も聞きました。ご両親が友達たちと集まって話をしていると、とても恥ずかしいのだと。みんなおじさんおばさんたちだから、手話でいやらしい話もするのだそう。しかも手を使った動作が、かなり直接的で。口で話すならひそひそ話もできるじゃないですか。だけど手話だから、遠くからでも分かります。恥ずかしいけど、それが面白いと言っていました。

その友達が、手話についてのドキュメンタリー映像を撮りました。「輝く拍手の音」というタイトルなのですが、手話では拍手をこのように表現します(両手をひらひらさせる)。上演会にお父さんお母さんも来られたので、観客みんなでおふたりに歓迎の拍手を手話でしようということになりました。とても静かなのに、みんなが手をひらひらさせている姿を見て、涙がどばっと出ました。これが彼らの世界なのだなあと。そのようにして、音がなくても意味が伝わる世界に興味を持ちました。


(後編へ続く)
イ・ランが語る、これからの社会と表現のゆくえ「私たちの世代は、私たちに合ったシステムを作り上げなければ」(後編)

イ・ラン
1986年ソウル生まれ。16歳で家出・独立後、イラストレーター、漫画家として仕事を始める。その後、大学に入って映画の演出を専攻し、在学中に趣味で音楽を作り始め、2011年シングル「よく知らないくせに」でCDデビュー。その後、短編映画『変わらなくてはいけない』『ゆとり』、コミック『イ・ラン4コマ漫画』『私が30代になった』、エッセイ『いったい何をしようという人間かと』、アルバム『ヨンヨンスン』『神様ごっこ』(2016年9月、sweet dreams pressより日本盤リリース)などの作品を発表。韓国のみならず世界各国で大きな支持を得る芸術家。
 『神様ごっこ』で2017年の第14回韓国大衆音楽賞最優秀フォーク楽曲賞を受賞するも、そのトロフィーを授賞式の場でオークションにかけるなど、批評的な言動も注目を浴びる。2018年3月には日本国内5箇所を廻るツアー予定

Lang Lee Japan Tour 2018
■3月17日(土)栃木・那須塩原 SHOZO 音楽室
出演:イ・ラン+イ・ヘジ
開場 6:00pm/開演 7:30pm

■3月18日(日)仙台 TRUNK | CREATIVE OFFICE SHARING
出演:イ・ラン+イ・ヘジ、yumbo、長内綾子(Survivart|トーク聞き手)
開場 4:30pm/開演 5:00pm/終演8:30pm

■3月21日(水・祝)金沢 オヨヨ書林せせらぎ通り店
トーク:イ・ラン(イ・ラン映像作品上映会・トークショー )
開場 2:00pm/開演 2:30pm

■3月21日(水・祝)金沢 shirasagi/白鷺美術
出演:イ・ラン+イ・ヘジ
開場 7:00pm/開演 8:00pm

■3月23日(金)東京・武蔵小山 ひらつかホール
出演:イ・ラン(5人編成フルバンド・セット)
開場 6:00pm/開演 7:00pm

企画・制作:スウィート・ドリームス・プレス
招聘:OURWORKS合同会社


写真=熊谷 直子
取材・文=清水 博之
企画=安東 嵩史 (TISSUE Inc.)

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