サウンド、SNS、そして多国籍化。すべてが新次元な最新K-POPの「世界戦略」

BTS © Big Hit Entertainment

現在の日本の音楽市場において確固たるシェアを築いたK-POP。TWICEや防弾少年団といった最前線のアーティストの名を、興味がない方でも聞いたことくらいはあるだろう。だが、彼らが21世紀に入って何度か日本メディアを騒がせた「韓流スター」とはすでに決定的に違う存在となっていることに、どれほどの人が気付いているだろうか。内向きに閉塞しがちな日本のエンターテインメント業界を復活させるヒントが、その躍進に隠されているかもしれない——そんな期待を込め、K-POPを現象としてだけではなくプロダクションの面からもマニアックに分析するzine「NoJam zine」を編集・発行する510373氏に、現代K-POPの立つ地平について思う存分書き倒していただこう。

「韓流ブーム」は終わり、「K-POP」は残った

日本のK-POPファンにとって、TWICEの『紅白歌合戦』出場は昨年の大きなトピックの1つだった。K-POPアーティストが『紅白』で歌うのは東方神起や少女時代、KARAが出演した2011年以来、6年ぶりのこと。彼女たちは代表曲「TT」の日本語バージョンを堂々とパフォーマンスした。

TWICEは昨年の出場歌手46組の中で唯一の海外アーティストだったが、番組では特段「韓国のアーティストであること」を強調されるわけでもなく、他のJ-POPのアーティストと同じように紹介され、トークをする姿が印象に残った。日本人メンバーが3人在籍することも大きいけれど、先日何度目かの『ミュージックステーション』に出演する姿を見ても、K-POPやJ-POPというカテゴリに関係なく、他のアーティストと同じように「人気があるから出てるんだろうな」と思える受け入れられ方をしているように見える。

TWICE

日本の大衆と韓国のポップカルチャーの交流を振り返ると、第1次韓流ブームとされるのが『冬のソナタ』の「ヨン様」に代表される韓流スターが大きな人気を集めた2003年〜2004年頃。ヨン様や『冬のソナタ』は、社会現象とも言えるブームを巻き起こした。そして東方神起、KARA、少女時代、BIGBANGなどK-POPのアーティストが日本で多くのファンを獲得したのが、2010年〜2011年頃の第2次韓流ブーム。この頃は地上波のバラエティ番組でもK-POPアーティストの姿を日常的によく目にした。

しかしこの後、日韓関係の政治的対立などを背景にブームは落ち着き、お茶の間で韓国のアーティストを見ることはいつの間にかほとんどなくなっていた。そして現在である。

『日経エンタテインメント!』が発表した2017年の「コンサート動員力ランキング」ではBIGBANGが嵐や関ジャニ∞を抑えて2位にランクインしている。さらには7位に東方神起、8位にSHINeeとトップ10のうち3組をK-POPアーティストが占める。またLINE MUSICの2017年の年間再生数ランキングでは、TWICEが総合チャートの3位を記録。韓流ブームは収束したかのように見えても、相変わらずK-POPのアクトの存在感は健在だ。K-POPに関して言えば、時代の空気を忖度したマスコミに敬遠されていただけで、1つのカテゴリとして日本の音楽シーンに定着したと言って良いのではないか。

「TTポーズ」が日本でも浸透したTWICEの「TT」

「韓国=イケてる」政治の言葉とは無縁の肌感覚

TWICEをはじめ、防弾少年団(BTS)やEXOなど現在10代20代の若いファンに人気のあるK-POPグループは、韓流ブームの収束後にデビューしている。彼/彼女たちのファンはインターネットでTWICEやBTSを発見し、日本のマスコミで取り上げられる前からリアルタイムで追っていた人が多いだろう。SNSが当たり前に存在する現在、情報の伝播において本国と日本の時差はほとんどないと言って良い。本国で発表された楽曲はYouTubeやApple Musicでほぼタイムラグなしに聴けるし、本国で出演した番組や登場した雑誌などもすぐに日本語や英語、中国語に翻訳され、インターネット上に出回る(翻訳の大半が非公式かつ自主的にファンが行なうものであり、それをアップするのは違法行為ではあるが)。

EXO

日韓関係の悪化によって反韓ムードが高まったことで収束したとされる韓流ブームだが、現在の若いK-POPファンは「反韓」「嫌韓」といった言葉には無縁のように見える。ライブ会場に集まるファンは、若い人ほど韓国風のメイクやファッションに身を包んでいる。メンバーのコスプレ風の人もいれば、メンバーが気に入っているというブランドの服で固めていたり、友達同士で揃えた双子コーデだったり。普段着ではなく、お気に入りのアイドルのライブという特別な場だから、特別なオシャレをしていこうという気合を感じる。

株式会社AMFが発表した2017年の「JC・JK流行語大賞2017」ヒト部門ではTWICEが堂々1位に輝いた。InstagramやTwitterでは「#韓国人になりたい」「#韓国好きな人と繋がりたい」というハッシュタグのついた自撮り写真が日々投稿され続け、女性ファッション誌でも「韓国っぽ2018」(『JELLY』2018年3月号)、「I♥KOREA」(『S Cawaii!』2018年3月号)など韓国特集を次々に展開。昨年3月にはラフォーレ原宿に韓国ブランドのセレクトショップ「KONVINI」がオープンした。韓流ブームの当時はファンを揶揄するような声も常に聞かれたが、現在はむしろトレンドに敏感な若者こそ韓国のファッションや音楽にアンテナを張っており、「韓国っぽい」ものがイケてるというのが若者の気分のようだ。

『S Cawaii!』の特集「I♥KOREA」には、その「気分」が次のように書かれている。

“K-POPやSNS流行りから、若者たちの間で第三次韓国ブームが訪れてるとか大人たちは勝手に分析してるみたいだけど、正直そんなのどうでもいー。単純にワタシたちには韓国っぽいものが可愛くて、オシャレに見える。ただそれだけの話だから。”

“自分らしさを出すための方法としてちょっとだけニュアンスを取り入れる。これが、イマドキのちょうどいいオシャレにつながる気がするんだ。だって気づいたんだもん。最近街で見る可愛い子、オシャレな子たちはみんな韓国っぽいってことに。”

韓国だからというわけではなく、単純に韓国っぽいものがオシャレだから取り入れる。このようなフラットな感覚を、現在の若いK-POPファンも自然と身に付けているのだろう。

「同時代の世界音楽」としてのハイレベルさ

では、K-POPが国の垣根を越えて支持される理由は何なのか。

まずなんと言っても海外のトレンドと同時代性のあるサウンド、複雑でハイレベルなダンス、そしてパフォーマンス全体を統一するコンセプトの3つが融合した完成度の高いプロダクションがある。「アイドル」という色眼鏡で見ようとすると、その「今風」のサウンドとビジュアルに驚かされるだろう。トラップやEDM、トロピカルハウスなど、欧米でトレンドになったジャンルをすぐに楽曲に取り入れるアンテナの高さと柔軟性がK-POPの武器の1つだ。

そして今や、多くのK-POPグループではメンバー自らが曲作りに携わっている。例えば、BIGBANGやその後輩であるWINNER、iKONのメンバーは自分たちで積極的に曲作りに参加していることで知られる。また昨年悲しくもこの世を去ったSHINeeのジョンヒョンは、自分のソロアルバムをプロデュースしているだけでなく、EXOや別事務所のIU、イ・ハイに楽曲提供するなど、「自作ドル」の代表的なアーティストだ。

SHINeeジョンヒョンの1stフルアルバム収録曲

BIGBANGの後輩WINNERの昨年のヒット曲「REALLY REALLY」

他にもSEVENTEENはメンバーのウジがほとんどの楽曲制作に参加。BTSのラッパー・SUGAは「Agust D」として自らプロデュースしたフリーのミックステープを発表しているが、フリーのミックステープをメジャーのアイドルが発表するということも日本ではあまり考えられない(もはやBTSがアイドルかどうかという議論は置いておくとして)。また、衣装にもハイブランドの最新のコレクションを取り入れるなど、とにかく海外を意識した作り手の姿勢が窺える。

先日日本デビューが発表されたSEVENTEEN

BTSのラッパー・SUGAの1stミックステープより

さらに、ファンをアーティストのナラティブ(物語)に取り込む巧みなコンセプト作りも大きな特徴の1つ。とりわけEXOやSHINeeを擁するSMエンターテインメントは、アーティスティックなビジュアルを用いてファンの心を掴む。新曲が出る前にティザー映像をいくつか公開するのがK-POPの定石だが、このティザー映像やビジュアルに新曲のヒントとなる要素を暗号のように散りばめる。このような映像を作ることでアーティストはファンの期待感を煽るだけでなく、PVだけでは伝えきれない作品の世界観を伝えることができ、一方でファンは「解析班」となって散りばめられたかすかなヒントをつなぎ合わせて作品世界を予想しながら、これから紡がれようとしている物語に没入していくのだ。

f(x)の2ndアルバム『Pink Tape』発表時に公開された「Art Film」

NCTの世界観を伝える「NCTmentary」

K-POPのアイドルたちは長く厳しい練習生生活を経てデビューすることで知られるが、その努力に裏打ちされたレベルの高いパフォーマンスによって楽曲が深化し、そこに作り込まれたビジュアルコンセプトが加わって化学反応を起こした時、K-POPは他のどこの国にもない独自のエンターテインメントになる。

24時間体制のSNS運用でファンの日常に浸透する

また、ハイレベルなパフォーマンスや音楽性と並んでファンの心を離さないのが、アーティストとの濃密なコミュニケーションだ。K-POPアイドルたちは新しい曲を発表するごとにコンセプチュアルなPVを作成し、髪型やメイク、ファッションを変えてその世界観に合った姿へと変貌する。少女漫画のような世界観だったり、ハードボイルド映画風だったり、SF映画風だったり様々だが、パフォーマンスをしている時はともすれば絶対に手が届かない2次元キャラのような存在感を放っているのに、ひとたびステージを降りるとファンとの距離がかなり近く、2次元どころかその辺にいる10代、20代の男女と変わらない姿を見せてくれる。

EXO

SEVENTEEN

彼らはSNSやYouTube、V LIVE(LINE LIVEのような動画配信アプリ)を駆使して絶え間なくコンテンツを投稿する。V LIVEは移動中の車中や自宅、ツアーの宿泊先のベッドの中などプライベートな場所から動画を生配信することもざらで、ファンに素の姿を惜しげもなくさらす。たとえ新曲のプロモーション期間が終わってメディアでの露出が減ってもSNSなどで色々な姿を見せてくれるので、ファンとのコミュニケーションは途切れることがない。

また、ファンはファンでライブ、収録現場、空港、事務所などどこへでもカメラ片手に出没する。K-POPのファンには「マスター」と呼ばれる非公式のファンサイトやコミュニティを運営する人たちがいて、彼らはプロ顔負けの高画質なアイドルの写真を次々に公開し、時には自分で撮った写真を使ったグッズの販売まで行なう。大手サイトのマスターになると「その人が撮るこのアイドルの写真が好き」なんてファンもいたりして、かなりの影響力を持つ。マスターの活動は非公式かつ色々な意味でグレーだが、彼らがアップする写真の数々によって、ファンは自分の好きなアイドルの様々な表情をほとんど日常的に見ることができる。K-POPは公式にも非公式にもとにかく供給が多いのだ。

ビルボードHot 100チャートにランクインするなど現在アメリカで大きな注目を集めているBTSも躍進の秘訣の1つはSNSにあると言われており、昨年にはアメリカの「Billboard Music Awards」でSNSで最も影響力があったアーティストに贈られるトップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞した。この賞はそれまで6年連続でジャスティン・ビーバーが受賞していた賞だけに、その桁違いの勢いが窺い知れる。

言語すなわちマーケット。多国籍化という「開かれた進化」

Billboard Music Awardsでは、BTSのメンバーが英語でインタビューに答える姿も印象に残った。彼らはその後、「Jimmy Kimmel Live!」「The Ellen DeGeneres Show」「The Late Late Show with James Corden」といったアメリカの人気番組にも出演したが、現地の言葉でファンとコミュニケーションが取れるというのは大きな武器だろう。

BTSのメンバーは全員韓国出身だが、日本人メンバー3人、台湾人メンバー1人を擁するTWICEを始め、多国籍なグループは今ではまったく珍しくない。例えば東方神起やSHINee、EXOの後輩であるNCTは、活動グループやメンバー数の制限がなく、世界の様々な都市を拠点にしたグループが順次デビュー予定という画期的なコンセプトを持った新人グループ。メンバーには韓国をはじめ、中国、アメリカ、カナダ、日本、タイ、香港など様々な国の出身者がいて、韓国語を共通言語としながらも様々な言語が飛び交っている。

韓国語だけでなく、英語や中国語、日本語が話せるメンバーがいることで、それぞれのマーケットにもアピールしやすいという戦略に基づいたメンバー編成だとしても、ファンにしてみれば通訳や字幕なしに自分の国の言葉を話してくれるメンバーがいるというのは嬉しいものだ。常に外を意識した作り手の広い視野と戦略、作り込まれたプロダクション、そして目の前の(無数の)ファンを離さない密なコミュニケーション。これが世界へと波及していくK-POPの鍵なのかもしれない。

BTS

BTSのアメリカ進出は、母国語の楽曲のままで現地のファンに受け入れられたという点でも大きな出来事だった。アメリカで格段に知名度を上げた2017年を経て、今年リリースされるであろう新作でもさらなる飛躍が期待できる。

もしあなたがK-POPに何か先入観を持っているなら、今のK-POPを聴いてみてほしい。独自の進化を続けるこのポップミュージックに追いつくのは、これからでも遅くはない。今、K-POPはこんなにも面白い。


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文=510373

510373
一介のKポペン(Kポップファン)。思いがけずKポ沼に落ちてしまった女たちのzine「NoJam zine」を発行している。
かつてはWeekend Never Diesというzineを作ったり、kayano_sotoというパーティーでDJをしていたこともある。ハマるとzineを作りがち。
https://nojamzine.stores.jp

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