マッチョ社会に抗う女性たち 韓国の非婚族

「非婚族」という言葉をご存知だろうか。日本ではあまり聞きなれないが、近年、韓国の若者の間でよく使われる言葉で、結婚しないことを自ら選んだ人を指す。わけあって結婚できてない、もしくはまだしていない未婚とは違い、「私は結婚をする意思がない」という自発的意思。一種のカミングアウトだ。
確かに、結婚は義務ではなく選択肢の一つという時代になってはいる。そうは言っても「非婚族」という言葉ができる程、韓国では「結婚しない生き方」を選択する若者が増えている。なぜ彼らは非婚を選ぶのだろう。筆者友人の非婚族を宣言した韓国人女性に8つの質問を投げかけてみた。

Kim InJungさん提供

未婚者への風当たりが強い韓国。「非婚族」が生まれた背景

と、その前に、韓国で生まれ育った私から見た結婚観とその背景について話してみたいと思う。
韓国において、未婚者への風当たりは厳しい。例えば、旧正月での一場面。親族一同が集まり新年を祝うのが一般的だが、その際、婚期が近づいている人も逃した人も「大丈夫? いつ結婚するの?」「いつになったら孫の顔を見せて親孝行するの?」と一同から必ず質問攻めに合う。10年くらい前までは、30代後半になっても結婚していない人は「情けない」「可哀想な人」とレッテルを貼られ、「(人間的、もしくは社会的に)何か問題があるのでは」と後ろ指刺されたりしていた。
しかし、最近は未婚に対する否定的な視線は減りつつある。責任と犠牲が伴う結婚よりも自分の人生を大事にしたいと思う若者が増えているからだ。韓国の若者は「結婚は本当に人生の必須条件なのか?」と結婚の必要性について強い疑問を抱き始めている。

そこで、「非婚」という新たな選択肢が生まれるわけだが、若者は結婚の何に疑問を抱いているのか。それは男女で意見が分かれる。
男性の場合、経済的な面が大きい。結婚式の費用、引っ越し費用、家賃(韓国の場合結婚と同時にマンションの一室を購入することが多く、賃貸の場合でも日本のように月単位ではなく年払いのため一度に出ていく金額が大きい)、生活費、養育費……。とにかく経済的負担が大きく、若者からすれば「なぜそうまでして働かないといけないのか」と考えるのも仕方がない。
その半面、女性は自由な生活ができなくなるという恐れや新しい家族関係に対する負担が大きい。結婚をすると仕事を辞めて家庭に入らなければならない。その家庭内でも、韓国は男性優位の社会なので生きづらさを感じることが多いようだ。
つまり、男性は「経済的」問題、女性は「社会的」問題が非婚族増加の背景にあると言える。

男女共に問題を抱えているが、特に、韓国社会では結婚すると男性より女性の方が失うものが多いのではないかと私は思う。非婚族を宣言する人の中でも女性がひときわ多いことがそれを表わしているのではないだろうか。
そこで、実際に私の友人の非婚族韓国人女性に話を聞いてみた。一流大学を卒業した後に、ソウルにある大学病院で女医として働いている彼女。なぜ「非婚族」になろうと決断したのだろう。

パートナーと共に人生を歩むのが結婚だと思っていたのに、現実は……

なぜ「非婚族」になろうと思ったのですか?

決めた理由は、それぞれ置かれた状況が違うので人によって異なると思いますが、私にとって一番のきっかけは、世界中で話題となっている「フェミニズム」を改めて考えたことでした。
韓国は酷い男女不平等社会です。近代に入って急激な経済発展を遂げましたが、社会の構図はまだまだ過去のまま。男女の賃金格差(2016年基準で36.67ポイント)は、なんとここ10年間のOECD加盟国の中で圧倒的1位。共働きの家事労働分担時間は世界最下位。過去とは違って、片働きでは食べていくのが厳しくてやむなく共働きが欠かせないのにも関わらず、家事分担や育児分担もまだ進んでいません。
会社でも不利な場面が多くあります。採用の時に結婚すると伝えたら、すぐ辞めると見なされ給与や昇進に響きますし、酷い場合は彼氏がいると知られただけで待遇が悪くなることもあります。また、出産後に育休を取得しようものならクビになるか、昇進に不利益な評価をもらってしまう。

韓国ではキャリアの断絶、ガラスの天井、ワンオペ育児などの社会現象が顕著に現れていて、積み上げてきたキャリアが結婚で失われる確率が非常に高いんです。
また、夫側の祖先を称えるために開催する祭祀にも関わらず女性だけが働かせられる奇妙な文化、嫁姑争いもついて回ります。これらを全て受け止める決心をしないと結婚はできません。
私にとって結婚は、出会ったパートナーと人生を共にするものなのに、現実は奴隷のような暮らし。もし、福祉制度がしっかりしていて女権が高い国で生まれたら結婚することを決心したかも知れないですね。

筆者友人の韓国人女性。韓国人の両親の元、ソウルで生まれ、現在29歳。兄弟はいない。ソウル市内の大学医学部を卒業後、同市内の病院に就職し、現在まで3年間内科医として勤務している。20代半ばで「非婚族」になると決意し、現在は非婚ライフを謳歌中。写真は趣味の旅行の際に撮影したもの。(本人提供)

「非婚」についてどのように考えていますか?

20代前半の時は結婚について深く考えたことがなく「いずれ結婚することが当たり前」と考えていました。でも、結婚した後に子どもをつくって育てるという一連の過程が心苦しいと漠然と思ってはいました。そもそも子どもが好きじゃなかったし、育児のことを考えた時、リスクがあまりにも大きくストレスにしか感じなかったので、20代半ばの頃にあえて子どもを生まない「DINKS」という在り方を選択。「DINKS」になろうと決心した後、「結婚って必要なのか?」と自分自身で問答していたら「非婚」という価値観に行き着きました。
今までの30年間を未婚状態で生きてきたわけなので、結婚しなかったらただ現状維持するだけですよね。経済的に安定していて、やりたいことも自由にできている今の状況を諦めたくない。周りの既婚者たちも口を合わせたように「独身時代に自由にできていたことが、結婚したらできなくなった」と言うんです。最近楽しいことも多いしやりたいこともまだまだあるのに、結婚というしがらみに時間とエネルギーをかけたくないんです。

非婚のデメリットとしては、老後の不安が挙げられると思います。でも、子どもがいない分の費用が浮いて、それを自分の老後対策に力入れられますよね。また、子どもがいると老後の面倒を見てもらうより、老後にも子どもの支援をし続けることになる可能性の方が高い。ましてや、子どもがいても独居老人になる人も多いんです。なので、私はそこまでデメリットに感じていません。
それよりも離婚のリスクの方が不安に感じます。病院で働いていると妻が看病しているケースをよく目にしますが、夫が看病するのはほぼ見たことがありません。それが離婚に繋がるケースが多く、夫ががんを患った夫婦より妻ががんを患った夫婦の方が、離婚率が2.7倍高いそうです。それに、2015年に「姦通罪」が廃止され、不倫が法的に罰せられなくなったこともあり、不倫による離婚も増えましたし。

もちろん「非婚」の人生が完璧とは思ってません。一人で生きていくのが寂しくて悲しい瞬間はありますし、社会の主流ではないので迫害される場合もあります。全ての選択にはメリットもデメリットもあって、それは結婚の場合も同じです。社会の情勢や自分の状況を整理して考えると、誰もが結婚するのが当たり前だと言えるほど魅力的な選択肢ではない。結婚にも適性があるんです。少しでいいので、非婚を選んだことも尊重してほしいと思います。


「非婚族」を宣言した時の家族や友人の反応は?

同年代からは支持されています。結婚適齢期に入って既婚者の友達が増えている中、結婚前には私の考えを鼻で笑っていた友達も、今では応援してくれています。親はまだ「やっぱり結婚はしなければならない」という立場ですけど、人生の岐路に立った時、一番大切なのは周りの反応より自分の思いや価値観だと思っています。自分の人生に他人は責任を取ってはくれない。幸い、私はもともと周りの目をあまり気にしない方なので、それほど辛いことはないんです。

Kim InJungさん提供

充実した非婚族ライフ

一人の生活は寂しくないですか?

寂しさに鈍い方ですが、寂しいという感情は人といることで解消されるものではないんですよね。彼氏や旦那さんがいたとしても寂しいと思うことはなくならないと思いますし。寂しい気持ちが訪れることはあるけど、縛りつけられる辛さに比べると全然ましです。


結婚はしなくても恋愛はしますか? また、子どもほしいとは思いませんか?

恋愛はしてもいいと思うけど、現在は活動休止中。韓国の社会では恋愛にもリスクがあります。売春率は非常に高いし、デート暴力、リベンジポルノに対する法的処罰が非常に軽いので、そういう行為が蔓延しているんです。
子どもがそんなに好きではないので、今はほしいと思わないです。韓国で非婚だけではなく、「DINKS」も増えている傾向にあります。最近は日本同様、韓国でも少子化問題が騒がれていますが、必ず非婚族が責められるんです。結婚を強要しても非婚族は減りません。それよりも、シングルマザーへの支援と認識改善に力を入れる方が正しいと思います。


ドラマなどで素敵な家族像を目にした時に「うらやましい」と思うことはないですか?

ドラマはドラマ、現実はそんなに単純なものではないですよ(笑)。家族関係から来る感動的な瞬間も存在する一方で、それによる悲劇的な瞬間も多いのが現実ですよね。


「非婚族」の間で仲間意識はありますか?

結婚した友人にはほとんど会えません。ワンオペ育児なので。彼らが置かれている状況や結婚生活で発生する悩みについては100%理解してあげられないので、結婚後はある程度関係性が疎遠になるのは事実としてあります。
だから、一緒に非婚の状態で維持し合える友達の存在は大きいです。でも、その友達がある日結婚するとしても裏切られたとは思いません。非婚は個人の価値観なので、私が結婚賛成派から非婚族になったように、状況によっていつでも変わるものだと思う。


非婚生活はどうですか?

文句なし! 一人でも平気な性格だし、やらなければならないことも多いですけど、やりたいこともいっぱいあるので生活は充実しています。趣味の一人旅行もできますし、家で一人の時間を楽しむことも幸せです。
たまに人恋しくなったら外に出て友達や親戚と会って遊んだりはしてますけど、他人と長時間同じ空間を共有するのはちょっと息苦しくもあります。今の生活がさらに安定したら猫を飼ってみたいです(笑)。


以上が「非婚族」の友人へ投げかけた質問と、それに対する彼女の回答だ。
時代が変わると我々のライフスタイルも共に変わっていくものだと思う。しかし、彼女の言葉から分かるように、韓国の若者は昔からの伝統や文化に苦しめ続けられているのも事実。
結婚と非婚、どちらが人生にとって正解なのかは正直分からない。だから、強要するものでもない。生き方は個々人で違い、人生は様々な流れの中での選択で作られていく。結婚も一連の流れの中で一つの選択に過ぎない。しかし、今まで「当たり前」とされてきた生き方に縛られず、お互いの選択を尊重して生きていくことは良い生き方と言えるだろう。今回改めて聞いた彼女の思いは、結婚観だけでなく自分にとって何が本当の幸せなのかについても考えさせてくれた。


取材・文=崔 成演(チェ ソンヨン)

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