男を乗り換えて大統領夫人に上り詰める! “女の業”がスゴい韓国ドラマ最前線(後編)

『野王~愛と欲望の果て~』DVD BOXより©SBS

夫と愛人の間にデキた子のDNA鑑定を偽造! “女の業”がスゴい韓国ドラマ最前線(前編)


ドラマや映画をはじめ韓国エンタメに精通する女性ライターの小田香氏と佐藤結氏が、Amazonプライムビデオ、U-NEXT、Huluといった動画配信でも見られる“女の業”がスゴいかの地のドラマについて語り倒す本企画。前編では、悪女が大活躍(?)の“マクチャン”と呼ばれるドロドロ系ドラマや、母親たちの恐ろしき執念が見られる作品などが挙げられたが、まだまだ2人の話は尽きない。時流に合わせて、韓国ドラマで描かれる女の業は“進化”しているのだ!

政財界を裏で操る笑わない女性実業家

小田 自分の野望を達成するために大嘘をついたり、他人を蹴落としたりする女の姿を描いた作品は前編でも挙げましたが、中でもミニ・シリーズの『ミス・リプリー』(2011年/MBC)と『野王~愛と欲望の果て~』(2013年/SBS)はその手のドラマの双璧と言えます。

佐藤 『ミス・リプリー』は、題名の通り『太陽がいっぱい』(1960年の映画。フランス人俳優アラン・ドロン演じる貧しい青年リプリーが、殺害した大富豪の息子フィリップになりすます)の女版。つまり、身分詐称の話です。

U-NEXT
Hulu
Amazonプライムビデオ

小田 韓国では2000年代のある時期、学歴詐称や身分詐称が社会問題となったので、それを反映したドラマでもありますよね。話としては、幼い頃に母親に捨てられ、父親を亡くしたヒロインが日本に養子に出され、養父の借金返済のためにホステスとして働いているところから始まります。その時の客だった韓国人の男の力を借りて韓国に逃げ戻るのですが、その男がヤクザ者だったせいで韓国でも苦しい日々を送ることに。そんな中、ひょんなことから韓国最高と言われるホテルの総支配人の目に止まったヒロインは、孤児院にいた時に出会い、日本の東大に留学した女友達の身分を装って「東大出身」と嘘をつき、ホテルの従業員として採用されます。色仕掛けとさらなる嘘で総支配人の心を掴み、ホテルの中でのし上がっていくのですが、偶然出会った青年が世界的リゾート会社の後継者と知ると、今度は彼を落とそうとする。ただ、結局、これまでの嘘がどんどんバレて転落していくのですが。

佐藤 一方の『野王』は、クォン・サンウ、スエ、ユンホ(東方神起)というトップ・スターたちのトリプル主演ドラマですけど、野望の果てに大統領夫人にまで上り詰める悪女ダヘを演じたスエの作品と言えるものでしたよ。

U-NEXT
Amazonプライムビデオ

小田 ダへは孤児院で共に過ごしたクォン・サンウ扮するハリュと成長してから再会し、結婚して彼の子どもを産むのですが、彼女は自分を襲おうとした養父をうっかり殺してしまう。すると、ハリュはダヘの罪を被り、さらにホストの仕事で得たお金でダヘをアメリカに留学させます。

佐藤 その留学先でダヘはユンホが演じる巨大財閥の御曹司ドフンと出会うと、ハリュを捨てて、そちらに乗り換えてしまう。

小田 そうしてダヘは財閥に入り込みますけど、ドフンが事故で亡くなると、今度は大統領選への出馬が見込まれるソウル市長の夫人になるんですよね。

佐藤 そしてついに彼女は大統領夫人となるわけですが、捨てられたハリュは検事になっていて、買収疑惑があるダヘを逮捕しようとハリュが大統領府へ家宅捜索にやって来る。そんなシーンから始まるドラマです。

『野王~愛と欲望の果て~』DVD BOX 1・2発売中。価格:BOX 1が22,680円(税込)、BOX 2が25920円(税込) 販売元:エイベックス・ピクチャーズ ©SBS

小田 ダヘという女の人生すごろくというか、女が終始物語をリードしていきますよね。だから、悪女とはいえ、スエにとってはやり甲斐がある役だったはず。

佐藤 『不夜城』(邦題『ハイクラス~私の1円の愛~』/2016年/MBC)は、女性実業家の野望が描かれたドラマですよね。もともと貸金業を営む父親と日本の九州で暮らしていたヒロインは、1円の大切さを骨の髄まで教え込まれるのですが、父親がかつて韓国で仲間に裏切られたことを知ると、その人物に復讐すべく韓国に渡ります。そして、自分より地位が高い政治家や実業家を裏で操るフィクサーとして力をつけながら、自分の事業を拡大していく。そんな彼女は、自分の部下である女性を育成していくんですけど、「感情もお金よ、節約しなさい」と言うなど本当に冷酷。こんなに笑わないヒロインがいるのかと思うほど笑いません(笑)。

Netflix

“いい話”に見えるドラマに潜む女の業

小田 ここからは、ストーリー的には感動できるものでありながら、女の業が見られるような作品を取り上げていきましょうか。例えば『ディア・マイ・フレンズ』(16年/tvN)は、60~70代の大ベテラン女優たちがたくさん出演し、シニア層の女同士の友情が描かれたドラマですが、もともと親友だったナンヒとヨンウォンという2人がある日を境に犬猿の仲となります。ナンヒの夫は離婚した後に亡くなっているのですが、実は離婚の原因は夫に愛人がいたからで、そのことをヨンウォンは知っていたんです。それなのにヨンウォンが教えてくれなかったことに対してナンヒは怒り、2人の関係が悪くなったわけです。このように仲のいい友達であれば、なんでも共有したり、日本の感覚だとお節介にも思えることもズバズバ言ったりするのが、韓国ドラマでは当たり前になっています。

U-NEXT
ビデオパス

佐藤 そういう生々しい感情も出てきますけど、自分に長年暴言を吐き続けてきた夫と別居したり、恋愛経験がなかったり、独身の娘との確執があったりと、登場人物たちの立場や背景はいろいろ。それぞれのシニア女性のリアリティを丁寧に描いているヒューマン・ドラマですよね。日本でも2017年に老人ホームを舞台にした昼ドラ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)がありましたが、それと比べるとかなり日常に近いドラマでした。『ディア・マイ・フレンズ』で主題となっていたのはシニア女性の友情でしたが、ヒロインの娘にその母と叔母、祖母という3世代に渡るドラマ『優しくない女たち』(2015年/KBS)も面白かったですね。

U-NEXT
Amazonプライムビデオ

小田 株に失敗して全財産を失うなど問題ばかり起こす母親ヒョンスクには、高校時代に対立していた女性教師に虐げられ、中退せざるを得なかったという過去があるんです。しかし、大学で非常勤講師をしている娘マリがなんとその女性教師の息子と恋人関係になったため、ヒョンスクと教師は再会し、2人の間にまた新たな確執が生まれます。さらには、有名料理研究家の祖母スノクは女手ひとつでヒョンスクやキャリアウーマンの叔母ヒョンジョンを育てましたが、失踪していた祖父には愛人の影がチラつき……。このように、女家族の歴史にドロドロのドラマがあるわけです。

佐藤 もう少し若い世代の女性を主人公にしたラブ・コメディの『ファンタスティック~君がくれた奇跡~』(2017年/JTBC)は、感動もできる良作でした。脚本家としてバリバリ働くヒロインは、ある日、がんが体内に見つかり、余命半年だと宣告されます。設定自体は比較的よくありますが、彼女はそのことを周りに言わずに、いかに良く死んでいくかを考えていく。

小田 いわば、終活ドラマですよね。

U-NEXT
ビデオパス

佐藤 実はヒロインの主治医もがんを患っており、先立って自分がどう死んでいくかを考えているので、ヒロインにいいアドバイスをするんです。また、過去に誤解から別れてしまった元恋人の人気俳優をはじめ、周りの登場人物たちもヒロインの死をどう受け入れるべきか向き合っていく。韓国ドラマの場合、死というモチーフはその当事者の家族に関係することとして描かれがちですが、このドラマではあくまでヒロインの意思にフォーカスしています。つまり、死までの残された時間の過ごし方は自分自身で決めて、周囲はそれを尊重する、という話になっている。そこが斬新だし、ヒロインの強い意思はある種の女の業といえるかもしれません。

新しい女の業が描かれたネット未配信のドラマ

佐藤 では最後に、日本でのネット配信が待ちきれないドラマも挙げていきましょうか。私がオススメしたいのは、『品位のある彼女』(2017年/KBS2)。財閥家の大邸宅で会長テドンの介護人から後妻にのし上がったボクジャという女性が殺される事件を出発点にして、彼女が初めてその家にやって来てから事件までを振り返っていくという話です。

小田 最終的に犯人は意外な人物だと分かるんですが、単なる犯人探しのドラマではないんですよね。ボクジャは幼い頃からずっと貧しくて、それゆえに虐げられた人生を送ってきましたが、上昇志向があり、このままでは終わりたくないと考えていました。やがて財閥家に入ったわけですが、ロールモデルとするのが会長の次男の嫁アジン。彼女は圧倒的にイイ女だし、女性でもあこがれるような人物なんですよね。

佐藤 そこまでお金持ちの家の出でもないけど、元CAで美しいし、分をわきまえるような頭の良さもある。まあ、軽薄な夫に浮気されたりしますが……。

小田 とにかく、そんなアジンのような品位のある女性になりたいけれど、本質的になることができない、というボクジャのジレンマの描き方が見事です。

佐藤 それから、怖かったのが『完璧な妻』(2017年/KBS2)。ヒロインのジェボクとその夫ジョンヒという平凡な夫婦が引っ越し先を探していたところ、大豪邸で独りで暮らす主婦ウンヒとたまたま出会い、彼女から自邸の2階を安く貸すと提案されて同居するようになるんですね。ウンヒは非の打ち所がないほど美しくて、裕福な生活を送っているんだけど、なぜその平凡な夫婦に接触してきたのか、だんだん理由が分かってくる。実は、ウンヒはもともとジョンヒのストーカーで、顔を整形するなど過去の自分をすべて変えた後、彼と住むために近づいてきたんです。しかも、豪邸で執事として働く女が、本当はウンヒの母親だったりして……。

小田 ヒロインを務めたのはチャン・ドンゴンの妻であるコ・ソヨンで、このドラマは彼女にとって久々の復帰作となりましたが、ウンヒを演じたチョ・ヨジョンの怖さの方が際立っていましたね。また、近づき方という意味では『耳打ち』(2017年/KBS2)もスゴかった。

佐藤 記者の父チャンホと共に防衛産業の不正疑惑を追っていた女性刑事のヨンジュが、不正の背景にテベクという巨大法律事務所が存在することを掴むのですが、陰謀によってチョンホは殺人の濡れ衣を着せられます。そこで、ヨンジュは父親の汚名を返上すべく、身分を偽ってテベクに入社し、巨悪に立ち向かっていく、という話ですよね。

小田 テベクに入社するため、ヨンジュは酔っ払っているテベクの代表イルファンの婿候補である検事ドンジュンに近づき、ホテルに連れ込みます。その後、前後不覚の彼と性行為をしているように見える動画を撮影。そして彼が目が覚めると、バスローブ姿で現れるんです。あの時のヨンジュが怖かったなぁ……。この『耳打ち』のような権力の腐敗を暴く系のドラマは、2016年12月に一連の不祥事で朴槿恵(パク・クネ)前大統領が弾劾訴追された前後から増えましたよね。

佐藤 また、最近は、刑事、新聞記者、弁護士といったこれまで男性が演じることが多かった職業の役を女優も務めるようになっています。しかも、そのことが特別なことではないように描かれている。

小田 主婦が主人公という作品は、朝ドラ以外では少なくなってきていますよね。かつては主婦のサクセス・ストーリーが多かったけど、最近は就職難に直面し、それに翻弄されて傷つく若者を描いたようなドラマが増えている。韓国では今、若者が本当に就職しづらいので。

佐藤 韓国ドラマはそうした実社会の現実も反映していて、時代の流れにともない、ドラマで描かれる女の業の形も変化しているんだなと感じます。


【プロフィール】
小田 香(おだ かおり)
ライター・編集者。出版社勤務を経てフリーランスとなり、2000年から日韓の俳優、ドラマ・映画・舞台関係者に数多く取材。「韓流ぴあ」などの雑誌や韓国ドラマDVDブックレット、映画パンフレットを中心に執筆するほか、小栗旬や井上芳雄など日本の俳優本を編集。著書にノベライズを手がけた『イニョプの道』(ぴあ)がある。

佐藤 結(さとう ゆう)
映画ライター。大学在学中に韓国・延世大学へ留学。2000年から2003年まで韓国の映画雑誌「シネ21」東京通信員を務める。現在は「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「TVnavi」「韓国TVドラマガイド」などの雑誌を中心に執筆。『弁護人』『インサイダーズ/内部者たち』『密偵』ほか、劇場用パンフレットにも寄稿。


構成=小川 知子
企画=中矢 俊一郎

Korea Issue

関連記事はありません。There are no related articles.

#ENTERTAINMENT

関連記事はありません。There are no related articles.

MOST POPULAR

LOGIN