カレーが好きすぎるミュージシャン 小宮山雄飛

夕暮れ時の住宅街。夕食の香りが路地に漂い、たちまちお腹が空いてくる。そんな郷愁を誘うシチュエーションと結び付く日本の国民食のひとつに“カレー”が挙げられるだろう。目を瞑れば情景がありありと浮かび上がり、その匂いすら感じてくるはずだ。近代日本の原風景と共にあるカレーは、我々のDNAに刻まれつつあるのかもしれない。

だが、一口にカレーといってもその種類は実に様々。小麦粉入りのルーを用いた日本式カレーや、宮廷発祥のスープ料理であるタイカレー、大量の油で煮込まれたミャンマーカレー、カレーの起源インドカレーなどなど、挙げ連ねればキリがない。しかし、インドにカレーという料理は存在せず、“サーグ”や“ダール”といった煮込み料理を、国外の人々がカレーとしてカテゴライズしているだけなのだとか。世界各国で親しまれ、日本でも老若男女に愛されている人気食だが、その実態を捉えて定義することは難しい。そんなミステリアスさも、人々を惹きつけてやまない理由かもしれない。

カレーに魅せられ、スパイス調合や巷の名店巡りに少しでも興味を抱いた人なら、必ずその名を耳にする人物がいる。“音楽業界のカレー王”こと、小宮山雄飛だ。結成20年を超える2ピースPOPグループ「ホフディラン」のボーカル&キーボードとして成功を収めながら、そのライフスタイルはまさに“カレー一筋”。週の半分は都内のカレー店を食べ歩き、ツアーで地方を訪れた際は、1日5軒を巡ることもあるというから驚きだ。

さらには、『カレー粉・スパイスではじめる 旨い! 家カレー』(朝日新聞出版)や『簡単! ヘルシー! まいにちカレー』(主婦と生活社)といったレシピ本を出版。BSフジで放送中の 『小山薫堂 東京会議』から生まれたユニット「カレーオールスターズ」にも参加し、5月2日(水)に発売されるシングル曲『カレーライスのうた』の編曲・プロデュースまで担当している。一体なぜ、こんなにもカレーを愛しているのか? そのバイタリティはどこからくるのか? 食と音楽にどんな関連性を見出しているのか? などなど、考えを巡らせると疑問が尽きない。数々の謎を解明するべく、マルチな才能を発揮する彼の目線から、カレーについて語ってもらった。

エスニック・ブームの影響で大のカレー好きに

――まずは、食に対する興味や関心のルーツについて教えてください。

“食”という括りだと、父の影響が大きいですね。とにかく外食が好きな人で、幼少期にいろいろな飲食店へ連れて行ってもらいました。例えばお蕎麦屋さんなら、「大人はお酒を飲みながら肴をつまんで、締めに蕎麦を食べるんだぞ」なんて教えてもらったりして(笑)。食に関する作法や粋な楽しみ方を、自然と学べる環境が整っていたのだと思います。父はいわゆる居酒屋みたいなお店も好きな人で、“高いもの=うまい”という考え方でもない。そんなスタイルにも強く影響されました。

――お母さまも食に対するこだわりをお持ちの方ですか? また、家庭の食卓にカレーがよく並んでいたのでしょうか。

出版したレシピ本にも書きましたが、母はナチュラル志向で料理好きな人です。でも、スパイスを調合して本格的なカレーを作るのは、当時の主婦にとって難しいことでした。かといって、出来合いのルーやレトルトは使わない主義。そんな母が至った結論は、「うちではカレーを作らない!」というものだったんです。だから僕は、いわゆる“おうちカレー”を食べずに育ちました。カレーを食べる機会は、給食や外食の時だけでしたね。

――では、カレーの虜になった理由はなんでしょうか?

僕がまだ小学生だった80年代初頭に起きた、エスニック・ブームが理由の1つだと思います。これにより、タイ料理やインド料理などを東京でも(小宮山氏は生まれも育ちも東京)手軽に食べられるようになったんです。そんなムーブメントに親しんでいたから、本場のインドカレーに抵抗感なくハマれたのかもしれません。カレー好きになるきっかけをくれたお店はたくさんありますが、最も衝撃を受けたのは高田馬場にあった『夢民(ムーミン)』です。インド風のカレーなんだけど、いわゆるインド料理とは違う。ナンではなくご飯で食べる日本のスタイルだったのもハマったきっかけかも。高校時代、ピアノの習い事帰りによく通っていたのが思い出深いです。

料理雑誌の企画から、カレー作りに開眼

――カレーの美味しさに目覚めてから、すぐにご自身でも作るようになりましたか?

実は、自分で作るようになったのはかなり後のことなんです。2008年に料理雑誌『dancyu』(プレジデント社)の企画で、スパイスカレー作りのレクチャーを受けたのが最初でした。当時はレシピが複雑かつ、スパイスも多ければ多いほど偉いといった風潮で……。3~4種類でも美味しいカレーを作れるレシピが増えた今と比べると、少し難しく感じましたね。スパイスも今ほど簡単には買えませんでした。でも、そんな奥深くマニアックな雰囲気に惹かれた部分もありますね(笑)。

――小宮山さんは、初心者でも気軽に作れるレシピを数多く発表されていますよね。そんな方向性が定まった経緯についてお聞かせください。

NHK Eテレの『趣味の園芸 やさいの時間』という番組でカレーのコーナーを担当させていただき、できるだけレシピを簡単にするよう依頼されたことがきっかけでした。多くの方がご覧になる公共放送なので、マニアックなスパイスはチョイスしづらいんです。そこでカレー粉を使うようになったんですが、これが予想以上に面白くて。「簡単なレシピでも美味しく作れるんだ!」という気付きを得られたことが幸いでした。

――カレーを作る頻度は、以前と比べて増えていますか?また、調理中の心境は?

調理する機会は確実に増えています。今日も、“朝練感覚”でカレーのお供を作っていました(笑)。番組や雑誌などの企画でオーダーをいただいた時のためにも、やはりカレー作りはライフスタイルに組み込んでおきたいんです。音楽に例えるなら、ボイストレーニングや運指の練習みたいなものかな。調理中は、楽器を弾いている時と同じで、とても気持ちが安らぎます。日常から離れられる瞬間なのかもしれません。音楽も聴かずに、スパイスの香りを楽しみながらカレー作りに没頭してしまいます。

――ちなみに、今朝は何を作られましたか?

最近ハマっているレモンライスを作りました。レモンピールのすりおろしや絞り汁、各種スパイスを使った南インド料理です。こんな感じでご飯のアプローチをいろいろと模索しながら、福神漬けも作っています。これがまた、美味しいし面白いんですよ。日本人がごく自然にカレーと一緒に食べてきたものですが、多くの人は出来合いのものを購入するはず。それに、アチャール(漬物)を作っているインド料理研究家は多くても、福神漬けまでカバーしている人は少ないんです。あまり注目されていない存在ですが、そんな“名脇役”を自作することにこそ、意義があると思っています(笑)。

――オススメの調理器具や、カレー作りの秘密兵器があれば教えてください。

カレー作りの基本は、玉ねぎをあめ色になるまでじっくり炒めること。その工程を考慮すると、一番の大敵は焦げなんです。だから、テフロンやフッ素加工が施された鍋をオススメします。加工が劣化しないよう丁寧に扱うことで、調理器具への愛着も湧いてくるところもいいですね。僕自身は、具材の炒めから煮込みまで1つの鍋でまかなえる「ル・クルーゼ」を愛用しています。煩雑さがなく、思い立った時にすぐ使えるのも重要なポイントです。この辺りは、カメラやキーボードの好みにも通じていますね。

音楽とカレーのシンクロニシティとは?

―― 日々カレーを作る中で、失敗されたことはありますか?

それはありますよ(笑)。楽曲でもカレーでも、完成間近に欲をかいて音や調味料を足したりすると、一気に良さが薄れてしまうことがあるんです。 ようやく“自分好みの分量”が分かってきて、失敗が減りましたけど、最初のうちはトライ&エラーの繰り返しでしたね。

―― カレーと音楽に感じる共通点について、改めてお聞かせください。

全体像を頭に描きつつ、“足し引き”しながら完成を目指すところでしょうか。楽曲やアルバムなら、「ギターリフとの兼ね合いで、ベースの低音を抑えよう」とか、「良い曲だけど、今回はあえて収録しないでおこう」とか。でも、カレーと音楽だけに共通点を感じているわけではありません。僕は、いろいろな物事をディレクター的な目線で捉える癖があるんです。これに関しては、料理や作品全体のバランスを調整する料理人や映画監督さんなんかも、近い感覚を持っているのかも。そんな方々に憧れると共に、共感する部分がたくさんあります。 一方、ミュージシャンには“プロデューサー型”と“プレイヤー型”の2パターンいて、うちのワタナベイビーは後者です。ボブ・ディランもそうかもしれませんね。己のスタイルを貫き通し、ギターの弾き語りだけで場の空気を掴むみたいな。僕は完全に前者なので、「ホフディラン」はうまくバランスがとれているんだと思います(笑)。

――ディレクター的な目線が育まれた理由はなんでしょうか?

80年代当時、僕はヘビーな洋楽リスナーだったんですが、楽曲やアーティストを紹介する方々に憧れたんです。『ベストヒット USA』(BS朝日)のDJを務める小林克也さんとか。日本語HIPHOPの先駆者いとうせいこうさんや、「スチャダラパー」辺りも近い存在かもしれません。僕はそういう、文化を広める“キュレーター的要素”を持つタレントやアーティストが好きで。山田五郎さんやみうらじゅんさんもそうですね。だからこそ、アートを突き詰めるというよりは、自分はプロデューサー兼キュレーターでありたい。「ホフディラン」を通じていろいろな音楽に興味を持ってもらえたら嬉しいし、カレーに関しても同じ気持ちです。

――「スパイスカレー作りは難しそう!」とお考えの方に、ミュージシャン視点からアドバイスをお願いします。

あんまり難しく考える必要はないのかも。極端な話ですが、結果良ければ全て良しだと思います。僕は五反田の鶏肉専門店『信濃屋』さんで鶏肉を買うんですが、塩をなじませてオーブンで焼くだけでもすごく美味しい! 半日かけて作ったチキンカレーと同じくらいうまいと、「なんのために時間をかけたんだろう??」と思ってしまうこともありますが……(笑)。音楽で例えるなら、オーケストラの演奏とアコースティックギターの弾き語りといった感じでしょうか。それぞれ音数や複雑さは違いますが、そこに優劣はありません。リスナーの心に響けばOKだと僕は思うし、これは料理だって同じです。カレーの場合も、いきなり10数種類のスパイスを使わなくて大丈夫。無理のない範囲で、どんどんチャレンジしてみてください。

小宮山雄飛が注目するカレーと今後の展望

――カレーとお酒のペアリングについて、酒場にも造詣の深い小宮山さんならではのこだわりがあれば教えてください。

これ、意外と難しいんですよ。カレー発祥の地インドでは、お酒をあんまり飲まないので。最近はカレーとのペアリングを推奨するお店も増えていますが、歴史的に言うと極めて新しい部類だと思います。日本でも長らくは、スタンドカレーや食堂で食べるイメージが強かったですし。でも、先日旅行したオレゴン州のポートランドにある『ボリウッドシアター(Bollywood Theater)』では、オリジナルのクラフトビールとカレーを提供していました。今後、こういったジャンルのお店も増えていくかもしれないですね。

――小宮山さんが注目している店舗を教えてください。

“お酒が飲めるカレー屋”という括りだと、新中野にある『スパイス&ハーブ居酒屋 やるき』でしょうか。もともと、居酒屋チェーンの『やるき茶屋』に勤めていたインド出身の方が独立開業されたお店で、その名の通りスパイス料理とお酒のメニューが充実しています。また、自由が丘の『カレー☆スーパースター』にも注目です。計算し尽くされた丁寧な仕事が魅力的で、強めのスパイス感が上品にまとまった美味しさ。しっかり主張がありつつも、安心して食べられるところが気に入っています。

――今後、チャレンジしてみたいカレーについてお聞かせください。

にんにくやトウガラシを用いた“ハリッサ”を活かしてみたいかな。3月初旬に行われた『dancyu祭2018』というイベントで作ったチュニジアの調味料で、これをカレーに混ぜて食べると絶品なんです。ルーの辛さを抑えておいて、アチャールやハリッサで好みの辛さに調節できるようにしたり、福神漬けを甘めに味付けしておいて、玉ねぎの量を減らしてみたり……。スリランカカレーのように、副菜を含めたワンプレートでカレーとして成り立つバランスにも興味があります。この兼ね合いを突き詰めれば、もっともっと可能性が広がると思うんです。

――カレーを通じて、小宮山さんが世の中に発信したいことはなんですか?

カレーに定義を設ける必要はないし、美味しければ基本的に“なんでもあり”だということです。先程も言いましたが、いきなりたくさんのスパイスを使わなくてもOK。「形にとらわれず楽しむことが大切だよ」というメッセージを、ミュージシャンとして発信していきたいと思います。とは言え、僕自身はカレーが大好きで、作ったり食べたりしているだけです(笑)。皆さん、自由に楽しみましょう!

カレーと音楽のルーツへと誘う、POPな案内人

インタビュー中に発せられた、「プロデューサー兼キュレーターでありたい」という一言。これこそ小宮山雄飛の本質であり、多岐に渡る活動の原動力なのかもしれない。その言葉通り、彼は多くの人に文化的な気付きを与えてきた存在だ。

例えば、テレビアニメ『さくらももこ劇場 コジコジ』(TBS)の主題歌となった『コジコジ銀座』。摩訶不思議で脱力感を誘うサウンドは、サイケデリックな60年代英国ロックと通ずるし、ある種サンプリング的な意図も伺える。かといってそこに堅苦しさはなく、大人から子どもまで幅広い層が楽しめる名曲だ。「ホフディラン」をきっかけに、「ビートルズ」や「XTC」などのバンドに興味を持つ音楽ファンも多いだろう。

カレーの分野においては、ディープなスパイスの世界への足掛かりとしてカレー粉をチョイス。ここでも堅苦しさはなく、これまで固形ルーを使っていた人でも、自然にスパイス調合までステップアップできる。音楽とカレーを簡略化して置き換えるなら、邦楽は一般的なおうちカレー、本格派のインドカレーは洋楽といった感じだろうか。そして小宮山雄飛は、似て非なる両者をつなぐ架け橋なのかもしれない。これからも自然体かつPOPに発揮する彼のマルチな才能に注目したい。


【インタビューで登場した店】
夢民
信濃屋
ボリウッドシアター
スパイス&ハーブ居酒屋 やるき
カレー☆スーパースター

【参考文献】
『カレー粉・スパイスではじめる 旨い! 家カレー』(朝日新聞出版)

小宮山 雄飛
ミュージシャン/渋谷区観光大使 クリエイティブアンバサダー。
1973年東京・原宿生まれ。96年からバンド「ホフディラン」のボーカル&キーボードとして活動を開始。食通としても知られ“音楽界のグルメ番長”の異名を持つ。『東京カレンダー』『UOMO』などに食のコラムを連載中。オリジナルレシピをまとめた『カレー粉・スパイスではじめる 旨い! 家カレー』『簡単! ヘルシー! まいにちカレー』を出版。ホフディラン史上最高傑作のアルバム『帰ってきたホフディラン」が好評発売中。さらに3月より全国ツアー『ふたたび帰ってくる!ホフディラン」を開催。2015年には自身が生まれ育った渋谷区の観光大使 クリエイティブアンバサダーに就任。多彩な能力を発揮して様々な活躍を見せるマルチクリエイター。

ふたたび帰ってくる!ホフディラン Tour
3月22日 (木) 下北沢/SHELTER
4月1日 (日) 沖縄/Output
4月6日 (金) 神戸/VARIT.
4月7日 (土) 広島/BACK BEAT
4月8日 (日) 福岡/DRUM SON
4月14日 (土) 高松/element
4月15日 (日) 徳島/寅屋
4月21日 (土) 仙台/Hook SENDAI
4月22日 (日) 札幌/DUCE SAPPORO
5月5日 (土) 大阪/十三ファンダンゴ
ホフディラン オフィシャルサイト


写真=三浦 咲恵
取材・文=山科 拓郎

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