「片親の子どもはかわいそう」はウソ! 海猫沢めろんvs石丸元章「男の育児論」(後編)

 カリスマホストがクラウドファンディングで子育てをするーーそんなストーリーの『キッズファイヤー・ドットコム』(講談社)が各所で話題となっている小説家・海猫沢めろん。自らの麻薬体験を書き綴ったベストセラー『スピード』(文春文庫)などで知られ、あのASKAとは“入院仲間”だった作家・石丸元章。ともに息子を持つ父親でもある2人が、育児について語り合う! はてな匿名ダイアリーに投稿されたフレーズ「保育園落ちた日本死ね」が国会でも取り上げられたのをはじめ、昨今の育児をめぐる諸問題はとかく悲観的に語られがちだが、両者によるエクストリームな議論からは子育ての“本質”が見えてくる……かもしれない。

 11歳の息子を持つ石丸元章、6歳の息子を持つ海猫沢めろん。2人の作家はどちらも息子が幼少のときに、働きながら家事育児をすべてこなすワンオペ育児経験があり、前編では執筆活動と育児の両立の難しさ、父親としての本音を赤裸々に語った。後編では、世間が求める父親像や理想の家族像とのズレ、それに対する思いと覚悟を語り合った。

キッズファイヤー・ドットコム
海猫沢めろん著/講談社
歌舞伎町の人気ホストクラブの店長、白鳥神威。ある日、彼の家の前に見知らぬ赤ちゃんがいた。育てることを決意した神威は、IT社長・三國孔明と一緒に、クラウドファンディングで養育費を募ることを思いつく。そんな近未来型仰天育児を綴った「キッズファイヤー・ドットコム」と、その続編として世界中の注目を浴びながら育った息子、通称KJ(カムイジュニア)を描いた「キャッチャー・イン・ザ・トゥルース」を収録。

“パパ役”を求められ、従ってしまう自分

石丸元章(以下、石丸) 育児の現場って、しばしば“個人”ではなく、パパの役を求められますよね。よそのママからは「◯◯くんのパパ」と呼ばれて、あれがすっごく嫌だったわけ。

海猫沢めろん(以下、海猫沢) ある種のロールプレイですよね(笑)。石丸さんは、世間の常識の枠が嫌で出たのに、子どもがいるとそこに否応無しに詰め込まれる。でも、世の中全体がそうなっているから反抗する先もなく、従ってしまう。厄介ですよね。子育ては言ってみれば、子どもというまっさらのハードディスクにOSをインストールするようなもの。ただ、石丸さんや僕みたいな父親が素のままだとバグッたOSになってしまうから、「人にはやさしく」「嘘をつかない」とかまずクリーンインストールしなきゃいけない。だから、「本当はそんなこと言いたくないんだけど……」と自分が嫌になることもあって。

石丸 子どもが3歳の誕生日に奥さんを追い出したのだけど、「その日から自分は拝一刀(マンガおよびテレビドラマ版『子連れ狼』の主人公。妻を殺した柳生一族への復讐を誓い、息子・大五郎を連れて刺客の旅を続ける)の生活になる」と思ったら気が楽になった。「子連れ狼として牛頭馬頭の地獄の道を行くぞ」と。保育園でもパパを演じながら「自分はパパじゃない」と思っているところがあったんです。ところで、タトゥーはどうしています?

海猫沢 五分袖のシャツをいっぱい買いました。東京ならそこまで目立たないけど、熊本みたいな地方は嫌われるので。だけど、夏はやっぱり暑い!

石丸 住んでいるエリアにもよりますよね。自分も、保育園の運動会などオフィシャルの行事ではやっぱり長袖を着たなぁ。ちなみに、保育園では朝の読み聞かせの係を週1回、2年間やったんです。で、その保育園で卒園した小学生が夏休みに読み聞かせに来るという企画を主催して、「それを取材してほしい」と「朝日新聞」を呼んだら、そのときだけ立派な人に思われました(笑)。

海猫沢めろん(うみねこざわ・めろん)
1975年、大阪生まれ。小説家。高校卒業後、ホスト、DTPデザイナーなどを経て、2004年に『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。著書に『零式』『全滅脳フューチャー!!!』『愛についての感じ』『ニコニコ時給800円』『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』『夏の方舟』など多数。ボードゲーム、カードゲームなどのアナログゲームを製作するユニット「RAMCLEAR」の代表も務める。

海猫沢 僕も最近、『キッズファイヤー・ドットコム』の取材で「熊日(熊本日日新聞)」に出たんですよ。新聞は強いですね。「不審者じゃないですよ」という証明になる。石丸さんの息子さんは、パパの“経歴”について知っているんですか?

石丸 小学5年生の頃、「パパって俺が生まれる前に誰かと結婚してるよね」「昔ラジオをやってたんだ」などと言いだしたんです。そこで「どうして知ってるの?」と聞いたら、「ウィキペディアで見た」と。インターネットを見だすと、親が教えていないことも知るようになる。

海猫沢 ネットでいろいろ言われているのも見られそうですね。嫌だなぁ……。

石丸 いずれ見られるでしょうね。「昨日、職員室に行ったらパパの本が置いてあったよ。覚せい剤の本。僕が気づいたら先生が隠してた」「パパはもっと人気が出るためには、楽しくなるようなことやらなきゃダメだよ。みんな、パパの本を読んで嫌な気持ちになるよ」なんて言われます。

海猫沢 いやいや、石丸さんの本は読むと気持ちよくなりますから!

石丸 今年の運動会には親戚が見に来たそうで、「パパの話、出た?」と聞いたら、「全然出なかった。パパの話が出るとみんなが嫌な気持ちになるから、そんな人はいないかのように楽しく過ごしたよ」っていじめられていて……。でも、それを言われて、むしろホッとするんですよ。自分は世間のパパ的なところに属していないけれど、そのことが本当に心の傷になっていたら言えないことだから。でも、もしかしたら、どの父親もそれぞれそういった負い目のようなものがあるのかもしれない。世間が言う“パパ”は実際には存在しないんだけど、暗黙のうちにみんなそれに合わせようとしているんだよね。

結局、いい父親、いい家族ってなんだろう?

海猫沢 ところで、息子さんは石丸さんが何歳のときに生まれました? 生まれて変わったことはありました?

石丸 自分は40歳。子どもが生まれたときに、子どもに向けた詩を書きました。子どもの指を何度数えても6本……みたいな内容ですが(笑)。子どもに向けて遺書も書きましたね。とにかく、生まれてきた子をこんな汚い手で抱いていいのかと恐れ多かった。そうそう、生まれたばかりのときはウーパールーパーのように透明に見えたからね。「子どもって生まれた瞬間、透明なんだ!」って驚いた。実際は透明じゃなかったらしいんだけど。

海猫沢 (笑)。それだけ感動したんですね。僕は36歳で生まれたんだけど、そういう感動は一切なかったなぁ。冷静でしたね。でも、産まれた後は人生が完全に変わりました。一人暮らし時代は毎日ループしているような生活だったんですが、子どもがいると未来に向けてやることが決まっているので、日々変化していますね。

石丸元章(いしまる・げんしょう)
1965年生まれ。作家、ゴンゾー・ジャーナリスト。96年、 自身の麻薬体験を綴った『スピード』を出版し、ベストセラーに。2014年、危険ドラッグの依存治療のため精神医療センターに自主入院したところ、覚せい剤使用容疑で逮捕されたASKAも同じ施設に入院。その際のエピソードも含む『覚せい剤と妄想 ASKAの見た悪夢』を17年に刊行。ほかに『アフター・スピード』『平壌ハイ』『DEEPS』などの著書がある。

石丸 いい父親でありたいという気持ち、あります?

海猫沢 ない(笑)。そんなことより面白いほうが大事だと思っています。ウチの両親は何より子どものことを優先する人で、それはそれですごい。僕はそこまでは思えない。仕事もしたいし、「家族と書くこと、どっちを取る?」と聞かれたら、考えちゃいますね。我慢してすべて家族にささげて生きると、絶対にどこかで破綻するのは目に見えてるから、まずはそういう自分を認めて、家族もやりたいことも両立する方法を探しています。僕が子どもの立場だったら、親から「俺はお前ら家族をとったんだ」って言われても「知らねえよ」としか思いませんし。

石丸 自分は逆に子どもから「パパのせいで」とよく言われます。「パパが追い出したからママがいなくなった」「パパのせいで転校することになった」と。ポケットをチェックして、「ドラッグを持ってるんじゃないだろうね?」とも言われるし。自分はダメパパ。だけど、パパはダメでもいいんじゃないかと思っているんです。

海猫沢 いやいや、綺麗ごとしか言わない親が一番ダメだと思いますよ。人間のバカな部分を愛せない人間が一番クソなんですよ。僕が子どもだったら、石丸さんが親だっていうのは超うらやましいですけどね。子どもは両親が揃っていないと不幸という人がいるでしょう。そういうのって呪いだと思う。子どもは言葉だけでなく雰囲気も読み取っているから、世間が言う“不幸なこと”が起こったとしても、一緒にいて楽しそうにしていたら楽しいと思っているはずですよ。石丸さんの息子さんもそうなんじゃないかな。

石丸 そうなのよ。「ママがいないとかわいそう」とやっぱり言われることがあって、言うほうは軽い気持ちなんだろうけど、「俺は子どもを不幸にしているのか」と傷つく。確かにママいなくなってからの2年間、一緒にいるときはお互いにいっぱいいっぱいだったけど、でも、その時期すぎると戦友のようになった。シングルはシングルの関係性が生まれるから、決してかわいそうということではないと自分は思う。親と子、自分たちのスタイルをつくることが大事なんです。

海猫沢 想像力のない“正解”みたいなのを押しつけられることが多いですからね。子育ては。あと、今大変な人たちに言っておきたいんですが、子育てには終わりがあるということです。永遠に続くと思うとヤバいけど……。

石丸 肩車を6年生になった今もヘトヘトになりながらしているのは、この時期を逃したら、もうそんなことなんてできないから。この夏、初めて一緒に旅行したんですけど、「この機会を逃したら子どもの体なんて一生触れない」と思ってベタベタしましたよ。ほかの子どもを触ったら捕まるしね(笑)。とにかく、自分の子どもと触れ合うのは、やっぱりうれしいもんだよ。

子どもに嘘をつく自由があっていい! 海猫沢めろんvs石丸元章「男の育児論」(前編)

文=安楽由紀子
写真=山本光恵

#CULTURE

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