子どもに嘘をつく自由があっていい! 海猫沢めろんvs石丸元章「男の育児論」(前編)

 カリスマホストがクラウドファンディングで子育てをするーーそんなストーリーの『キッズファイヤー・ドットコム』(講談社)が各所で話題となっている小説家・海猫沢めろん。自らの麻薬体験を書き綴ったベストセラー『スピード』(文春文庫)などで知られ、あのASKAとは“入院仲間”だった作家・石丸元章。ともに息子を持つ父親でもある2人が、育児について語り合う! はてな匿名ダイアリーに投稿されたフレーズ「保育園落ちた日本死ね」が国会でも取り上げられたのをはじめ、昨今の育児をめぐる諸問題はとかく悲観的に語られがちだが、両者によるエクストリームな議論からは子育ての“本質”が見えてくる……かもしれない。

 待機児童、ワンオペ育児……育児を取り巻く問題は、母親だけの問題じゃない!
 溶接工やホスト、DTPデザイナーとさまざまな職を経て2004年に小説家デビューした海猫沢めろんが、今年7月にイクメン小説『キッズファイヤー・ドットコム』を上梓した。海猫沢本人も現在6歳の息子がいる。息子が1歳のときには妻が体調を崩し、半年にわたり一人で家事と育児をこなした。そして今春、9浪していた妻の医学部進学にともない、一家は熊本に移住。東京の仕事場と2拠点生活を送っている。
 一方、過去に覚せい剤取締法違反で逮捕され、自身のドラッグ体験とその顛末を描いた私小説『スピード』(96年/文春文庫)がベストセラーとなった作家・ジャーナリストの石丸元章には、11歳の息子がいる。息子が3歳のときに妻と離婚。一人きりで息子を育てるも、5歳のときに東日本大震災にともなう原発事故が起き、避難のため息子を台湾に住む妹夫婦に預けることに。その間の2014年、自身は危険ドラッグ依存治療のため専門医療機関に自主的に入院。昨年、帰国した小学6年生の息子は、平日は千葉にある石丸の両親宅で生活し、休日は石丸と過ごしている。
 かように、どちらの環境もいわゆる「フツー」の家庭とは異なるが、そんな作家2人が語る育児のつらさ、そして喜びとはーー。

キッズファイヤー・ドットコム
海猫沢めろん著/講談社
歌舞伎町の人気ホストクラブの店長、白鳥神威。ある日、彼の家の前に見知らぬ赤ちゃんがいた。育てることを決意した神威は、IT社長・三國孔明と一緒に、クラウドファンディングで養育費を募ることを思いつく。そんな近未来型仰天育児を綴った「キッズファイヤー・ドットコム」と、その続編として世界中の注目を浴びながら育った息子、通称KJ(カムイジュニア)を描いた「キャッチャー・イン・ザ・トゥルース」を収録。

子育てを“書く”ことの難しさーー育児文学論

海猫沢めろん(以下、海猫沢) 子どもが産まれると、編集さんから「子育ての話を」って言われませんか? 息子が生まれた6年前から「子育てエッセイを書け」と編集の方に言われているんですけど……。石丸さんは子育てエッセイどうですか?

石丸元章(以下、石丸) なんとなく、書きたくなくて……。

海猫沢 僕は子育てエッセイを書いちゃったら子育て小説は書けなくなると思って、先に小説『キッズファイヤー・ドットコム』を書いたんですよ。その執筆にあたっていろいろ調べたら、実は男の子育て小説はあまりない。映画では『スリーメン&ベビー』、マンガは宇仁田ゆみさんの『うさぎドロップ』……は赤ちゃんじゃないか、近年の小説では弟夫婦の子どもを預かる男を描いた堀江敏幸さんの『なずな』があるけど、少ないですね。女性が書いた子育て小説でしっくりきたのは、金原ひとみさんの『マザーズ』。反骨精神があって、いわゆる“お母さん”のイメージからは遠いんですよ。フィクションで気になるものはこれくらいで、あとはやはりエッセイが面白い……書けと言われるのはわかるんです。

石丸 エッセイは多いですね。子育てエッセイって、誰が書いてもいいものになるんですよ。

海猫沢 小説を書き終わったので、今エッセイに取りかかっているんですが、セルフイメージと矛盾する感じがして、書きづらいんですよ(笑)。「子どもがいる自分が嫌だ」という雰囲気が出てきちゃう。そんな子育てエッセイ、誰も読みたくないじゃないですか。

石丸 子どものことを書くにも抵抗があるんですよ。自分は、個人的なフェイスブックにも書かないことにしてるの。「この子の子ども時代はこうでした」って俺が書いても、子ども自身は将来「自分はこんな子じゃない」と嘘をつきたいかもしれないでしょう。子どもに嘘をつく自由があっていい。だから、子育てしている自分に関しては書いても、子ども自身に関してはあまり書かないようにしてるのよ。シングルで子育てしていたとき、依存症関連の学会誌に3年間ほど連載していたエッセイも、子育てがしんどくてしんどくて、脱法ドラッグ(現・危険ドラッグ)はいいのか悪いのか逡巡した……ということを書いていたんです。まあ、あれは、ほとんど私の問診だった(笑)。

海猫沢めろん(うみねこざわ・めろん)
1975年、大阪生まれ。小説家。高校卒業後、ホスト、DTPデザイナーなどを経て、2004年に『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。著書に『零式』『全滅脳フューチャー!!!』『愛についての感じ』『ニコニコ時給800円』『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』『夏の方舟』など多数。ボードゲーム、カードゲームなどのアナログゲームを製作するユニット「RAMCLEAR」の代表も務める。

海猫沢 でも、その時期に書けるのはすごいですよ。僕は子どもが生まれてから2~3年間は仕事してないですね。1歳のときに『ニコニコ時給800円』(11年/集英社)のPRでメディアに出ていたけど、あの小説を実際に書いたのは生まれる前くらいだったし。

石丸 いや、自分も子どもが幼少時に出版できたのは『ヘルズエンジェルズ』の翻訳本(11年/リトル・モア)だけ。この作品は、27歳のジャーナリスト、ハンター・S・トンプソン(客観性を捨てて取材対象に自らを投じる「ニュー・ジャーナリズム」の旗手となった作家。66年に暴力的バイカー集団ヘルズエンジェルズに密着したルポルタージュ『ヘルズエンジェルズ』を発表)が「これで世に出てやろう」という気持ちで書いた勝負作なんですけど、当時のカルチャー・セレブであるケン・キージー(小説『カッコーの巣の上で』などで知られるアメリカの作家)が自宅で開いたLSDパーティに「妻と息子をつれて行った」と1行だけ、Funという子どもの実名が出てくる。ゴンゾー(ならず者)・ジャーナリストと呼ばれる彼が記念作として幼い息子の名を入れたかったんだろうなと、トンプソンと子どもとの距離感にジーンときたね。ただ、まとまった仕事としてはこの翻訳が精いっぱい。子どもがいると、やっぱり文章は書けないんですよ。子どものゴハンをつくってから、「書く」って気にならなくて。

海猫沢 そのときの睡眠時間は? 子どもの世話もあるし、眠れないですよね。

石丸 1日4時間くらいだった。

海猫沢 それは寝なくていい魔法のクスリがあったからですか……?

石丸 いやいや(笑)。子育てと仕事は相性悪いですよ。仕事って殺伐としているから。

海猫沢 僕も去年、このままいったら鬱になるなとうっすら思いました……。「ずっとこのまま終わらないのか、俺はダマされてる」ってヘンな妄想が出てきて。夜中3時に突然妻にブチギレましたね。「耐えられない、俺はもう東京に帰る!」と本を壁に投げて叫んだり。

石丸 保育園が終わる時間が近づいてくると、怖くて怖くて……。「もうイヤだー」って育児ノイローゼになって、病院に通ったこともありましたよ。

息子とは“男友達”のように遊ぶ

海猫沢 一人きりで子育てしたのは結局、半年ほどでしたけど、子どもって成長するにつれて相棒みたいな感じになってきませんか?

石丸 5~6歳以上になると、急激に面白くなりますね。息子が5年生になって台湾から戻ってきてからは、ずっと面白い。それなのに、脱法ドラッグ(現・危険ドラッグ)で子育てができなくなってしまうという、決してあってはならないことを……。あるとき、ゴハンを2日連続でつくれなくなったんです。「パパ、ゴハンは?」と子どもに言われたら、もう終わりじゃない?

海猫沢 そこは、「カップラーメンを食べといて」でもいいんじゃないですかね? ウチの場合、食事は全部僕がつくっているんですけど、たまにカップ麺になっちゃうときがあります。

石丸 それはイヤなの。保育園のときも、お弁当をつくるのは楽しかった。

海猫沢 めちゃくちゃいいお父さんじゃないですか! 僕、妻の弁当もつくっていますけど、冷凍食品が安いしウマいので、それで済ませちゃったりしますから……。石丸さん、全部つくっていたんですか?

石丸 つくっていた。弁当をつくるときに自分の分も一緒にこさえて、それで飲みたいの。でも、息子は偏食で食べてくれなくて。今から考えれば、放っておいてもおなかが空けば食べるんだけど、そのときは少しでも食べさせようと思って、好きなものばかり買ってきてた。

海猫沢 自分が子どものとき、メシを食うのが嫌いだったから、子どもに「残していいよ」と言ったら、逆になんでも食うようになりましたね。石丸さんは家事も全部やっていたんですよね? 僕は子どもが生まれた人には“SSD”をおすすめしているんです。食洗機、洗濯乾燥機、電動自転車のことです。この3つがあると、本当に家事がラクです。

石丸 自分で皿も洗っていたし、洗濯物も干していたなぁ。ゴハンが終わった後、お向かいにたまたま暮らしていた方の家に1~2時間、息子は毎日遊びに行っていたんですよ。そこのおウチがなければ、2年間のシングル子育てはできなかったと思う。週1日、自分が遊びに行く日はあって、そのときはベビーシッターを呼んでいたけど、急な仕事が入ったらそのお向かいさんに頼んでいた。自転車は子ども用シートが付いているのがあったけれど、酔ったときになくしちゃって(笑)。仕方ないから、肩車で通園していましたよ。「小学6年生までは肩車する」って今でもしているんですよ。

海猫沢 めちゃくちゃすごいですよ……石丸さんが次にもし捕まるようなことがあっても、それだけで無罪になりますよ。

石丸元章(いしまる・げんしょう)
1965年生まれ。作家、ゴンゾー・ジャーナリスト。96年、 自身の麻薬体験を綴った『スピード』を出版し、ベストセラーに。2014年、危険ドラッグの依存治療のため精神医療センターに自主入院したところ、覚せい剤使用容疑で逮捕されたASKAも同じ施設に入院。その際のエピソードも含む『覚せい剤と妄想 ASKAの見た悪夢』を17年に刊行。ほかに『アフター・スピード』『平壌ハイ』『DEEPS』などの著書がある。

石丸 子どもとの遊びは、どんなことをしていますか? ウチの場合、小さい頃は毎週末、上野動物園だった。年間パスポートを買うと安いんですよ。

海猫沢 ウチも上野動物園、よく行っていました。あそこは安いし、いいです。熊本のほうは自然が多いから、毎週近所のデカい公園に行って、ボート浮かべたり水遊びしたりです。

石丸 大きくなってからは、遊園地は高いから映画ですね。夏も冬もラクだし、こっちがしんどかったら寝ていてもいいし。

海猫沢 でも、映画も毎週だとお金は馬鹿にならないですよね。

石丸 そうなのよ。そこで、ほかに何かいい遊びはないかと考えたところ、卓球に行き着いた。子どももサッカーや野球と違って「痛くないからいい」と言うし、苦しい練習をしなくてもなんとなく上手くなってね。力がモノを言うスポーツじゃないから、親子でも勝負になるし。最近は毎週、マンゴージュースを賭けて3時間くらい一緒にやっています。だから、マンゴー杯って呼んでいる(笑)。

海猫沢 なんてハートフルな話なんだ……。ウチの子はまだ6歳だから、そこまではできないかな。

石丸 「子どもと過ごすことが大好き」って親もいるじゃないですか。実は、自分はそうじゃないの。しんどいの、はっきり言って。だから、卓球や映画がちょうどいいんです。

海猫沢 それは、すごくわかります! そこは多くの男親が思っているけど言えない部分だと思います。やはり、子どもだから大人が面白いような遊びはなかなかできませんしね……。でも、男友達とするようなことは多少できるんですよね。アニメ見たり、ジムで一緒にトレーニングやったり。

石丸 それは楽しそうだなぁ。

「片親の子どもはかわいそう」はウソ! 海猫沢めろんvs石丸元章「男の育児論」(後編)


文=安楽由紀子
写真=山本光恵

#CULTURE

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