ブラウン管テレビ、扇風機、エアコン…廃家電が楽器に変身! 奇祭「電磁盆踊り」に見たテクノロジーとノスタルジーの邂逅

オープンリール式のテープレコーダーを改造して楽器として演奏するバンド・Open Reel Ensembleのメンバーとしても活動するアーティストの和田永が、古い電化製品を使った“家電楽器”の体験イベント、和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」〜本祭 I:家電雷鳴篇〜を、11月3日から5日にかけて東京タワーのふもとにあるStar Rise Towerにて開催した。

和田永

和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」とは、古い電化製品を使ってさまざまな電子楽器や音楽を生み出してきた和田が、あらゆる人を巻き込みながら新たな楽器を創作し、合奏する祭典を目指すプロジェクト。3年目となる活動の集大成が「本祭 I:家電雷鳴篇」の3日間だ。11月3、4日には、ブラウン管テレビ、扇風機、エアコン、掃除機、黒電話などを楽器に改造した家電楽器の体験・展示とトークイベントを実施。
最終日5日はZAZEN BOYSの向井秀徳、劇団・快快-FAIFAI-、高野山住職の飛鷹全法、メディアアーティスト・市原えつこらをゲストに迎えて「電磁盆踊り」と銘打ち、家電楽器のみによる革新的なコンサートを繰り広げた。ここでは、その最終日の模様をレポートする。

「これは電化製品の供養祭です」

会場には、五角形の大型やぐらが組まれ、やぐら内とその周囲に計12種類の家電楽器が置かれていた。その一部を紹介するだけでも、アナログカメラのストロボが発光とともに放つ電磁波をAMラジオで受信して重低音を鳴らす「ストロボ鑼」、小型ブラウン管テレビを三味線に見立てた「テレ線」、換気扇に光源とオリジナルの羽根を付け、回転によって明滅する光を太陽電池で拾って音にするというシステムの「換気扇サイザー」など、奇天烈な楽器の数々が鎮座する異様な雰囲気。ちなみに出演者は盆踊りというシチュエーションに合わせ、モダンな浴衣や大掃除のような格好で来場者を迎えてくれた。

「ストロボ鑼」

開演後、最初に披露されたのは、電気掃除機を利用した吸奏楽(すうそうがく)楽器群「フーヴァホーン」。掃除機内部をハッキングして、管を組み合わせて空気の送り道を変えることで音を出している。「フーヴァホーン」は手作りリードで吹くとは真逆の“吸い鳴らす”、新感覚の楽器だ。指揮者は藁箒を床にドンドン打ち付けてリズムを先導し、6人の奏者がコンタクトを取りながら合奏する様は、さながらオーケストラのよう。

続いて、ブラウン管テレビが上向きに横一列並んだコーナーで「ブラウン管ガムラン」のプレイタイム。この楽器はブラウン管テレビから出ている電磁波を素手でキャッチし、身体に接触させたコイルを通してギターアンプから音を出すという仕組みだ。和田がタブラやボンゴ同様に叩いてビートを奏で、手を滑らせると音が歪みうねる様子は、ベースのスラッピングにも似ているし、DJのスクラッチやツマミパフォーマンスのようでもある。その後、奏者が4人にパワーアップすると、1人5画面、合計20台のテレビ画面を駆使して、音色のバリエーションも画面の色も豊かになり、曲として鳴り響く。“雷鳴打楽器”の謳い文句に違わない、言い換えれば叩くシンセサイザー。エレクトリックな音色ながら、叩き続けている和田は汗だくで、演奏後は「手が痛い!(笑)」と本音を漏らした。

ブラウン管ガムラン

「エアコン琴」と「テレ線」

次に、和服を着た女性奏者たちによる、「エアコン琴」と前述の「テレ線」のパフォーマンス。「エアコン琴」は、今年で発売50周年を迎えたルームエアコンの名機「霧ヶ峰」のファンにネオジウム磁石を等間隔に貼り付け、回転によって起こる磁気の波を指先に付けたコイル「電磁爪(でんじづめ)」で拾い、柔らかな音色を生み出している。今回のステージでは「エアコン琴」2台、「テレ線」2台、和田の「担ぎテレビ太鼓」からなる編成で、「霧神音(きりがみね)」と題した和風のメロディの楽曲を披露し、会場はテクノロジーと和の融合した世界観に包まれる。

マイクを持った和田は、来場者にこう話した。「これは電化製品の供養と蘇生祭です。我々が生み出し、我々が廃棄してしまった家電たちを極楽浄土へ送るべく、楽器として蘇生させてその雄叫びを轟かせます!」

“ジミヘンみたいな音なる扇風機”と向井秀徳がコラボ

ステージを平場からやぐらの上に移して、今度は「扇風琴」のショー。Twitterで「ジミヘンみたいな音なる扇風機」と話題になったこの「扇風琴」は、扇風機に光源と穴の空いた円盤を取り付け、回転によって明滅する光を「光電爪(こうでんづめ)」と名づけたセンサーでキャッチして音に変換し演奏する。音階は円盤の穴の間隔を計算して導き出されているため、奏法さえマスターすれば音階が弾ける上、調光機で電圧を変えてチョーキング、弱・中・強のスイッチで転調をしているという。ギターストラップを取り付けて担げば、もはやエレキギターのように弾けるというわけだ。

扇風機ギター「扇風琴」をかき鳴らす和田永

そのサウンドはエレクトリックな高音が基調だが、パイプオルガンに似た神聖なムードも併せ持つ。「Amazing Grace」のフレーズを用いたような和田のソロプレイがそう思わせたのだろうか。和田は「つまりこれで伝えたいのは、扇風機の中にジミヘンの魂が宿ってる!ってことなんですよね」と力説する。また、4台使って“扇風琴カルテット”となると、ベース代わりの低音、中音、主旋律、高音とパート分けもできて広がりが出る。もはや、オーディエンスには楽器にしか見えていない。ただ、肩から提げるにはベース以上に重そうだった。

ここで、和田がスペシャルゲストの向井秀徳を呼び込んだ。「この曲で、扇風機を鳴かせたい!ということで選びました」という前置きで始まったのは、ZAZEN BOYSの名曲「KIMOCHI」。 向井は曲中、アドリブで「貴様に伝えたい、あの夏の終わりの生ぬるーい感じ。扇風機がグルグル回ってた畳の部屋で、夏の高校野球見ながら寝そべっていた俺。夏の思い出の回転。あのうずまき模様がここに現れて、どうしようもないノスタルジー。そう、これは夏のグルグルの回転」と観客に訴えかける。このラップは予定になかったパートで、和田は泣き嘆くようなフリープレイで応戦しながらも驚いていたそう。そして、大サビから向井も「扇風琴」を演奏! 「貴様に伝えたい、俺のこの扇風機を、扇風機を、扇風機を」と轟音の中で絶唱し、場内は大喝采に包まれた。扇風機の実機を提供した参加者も「我が家の扇風機がこんなことになるとは思ってませんでした!」と興奮気味だった。

向井秀徳も「扇風琴」セッションに参加

家電楽器の人力演奏のみ、圧巻の「電電音頭」

イベント後半は、いよいよ電磁盆踊りへ。東大法学部卒の高野山住職・飛鷹全法による口上で盆踊りが開幕した。盆踊りは元来、死者を供養する祭りだが、今日は「役目を終えた電化製品を供養する祭り」というコンセプトが厳かな口上に表れている。“ドドンガドン”というリズムを彩るのは、「ブラウン管大太鼓」「非常カンチキ」「扇風琴」などの楽器たち。テレビから出る低音のノイズや非常ベルから生み出される祭り囃子が人々を踊らせる。

飛鷹師の口上のあと、いよいよ盆踊りへ

参加者がやぐらを囲んで回る中、ブラウン管の発する静電気に触っているNicos Orchest-Labメンバーと来場者がハイタッチすることで、通電して音が鳴る「電気通りゃんせ」なる試みや、かつて理髪店で活躍していた“お釜ドライヤー”を再利用した神輿「釜鉾」もお祭り気分を盛り上げる。さらに途中から、快快-FAIFAI-の面々が妖怪たちに扮して参加し「盆踊りはあの世とこの世をつなぐ大事な儀式。あたしたちが電電音頭を教えてあげるよー!」と、最後を飾る「電電音頭」のパートへなだれ込んだ。

「釜鉾」が会場になだれ込む!

「電電音頭」とは、和田丸縞之介(和田永)が作詞作曲した、このイベントのためのオリジナル曲。快快-FAIFAI-が手がけた振付は、電球をチカチカさせる動作や、電磁コイルをくるくる回す動作、「♪電気・電波・電子・電磁〜」という歌詞に沿った手振りなどが盛り込まれていた。音頭の歌い手として民謡歌手の木津かおりも登場し、豪華ゲストもいよいよ総出演状態。「ブ・ラ・ウン・管!」「人・工・知・能!」というフレーズに乗せてノリノリで踊る観衆に、和田は「どんどんヤバい集団化してますね!(笑) 歌うたびに地デジ化以降のブラウン管の魂がポーンポーンポーンって極楽浄土に行ってます」と、ボルテージが上がっている様子だった。

祭囃子に乗って家電の魂が極楽浄土へ

フィナーレはレーザー飛び交う会場に、全員で「電電音頭」を歌い踊る、まさに「電磁盆踊り」にふさわしい光景が広がった。大きな熱気に包まれて全プログラムが終了。最後は、このとき音の出るすべての楽器の音を鳴らして、黙祷ならぬ“爆祷”でイベントが締めくくられた。首謀者の和田は「今回は1曲しか作れなかったけど、『電子レンジでチンチン音頭』も『冷凍庫でカチンカチン音頭』も作りたいですね。そのときは皆さんまた来てください!」と呼びかけて、大きな拍手を浴び大団円となった。

都市の廃棄物によるエンタテインメント

NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)主任学芸員の畠中実は、この和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」というプロジェクトについてこう解説している。「家電がもともと持っていた役目から、それとは異なる機能に着目し、電子楽器として機能するように改造し、そこから演奏法を編み出し、新しい楽器を創造するもの」。加えて、本プロジェクトの大きな特徴は、参加者とともに、それぞれ来歴の異なる家電を選別しながら、ひとつひとつの楽器が持つファンタジーを作り上げ、共有し、都市の廃棄物による音楽を創造していることだろう。観客が一緒に楽しむ参加型だからこそ、今回の「電磁盆踊り」は大成功を収めたのだと思う。

今回会場となったのは、東京タワーのふもとにある元テレビスタジオ。まさに一つの時代のシンボルともいうべき電波塔の下で、役割を終えた “はず” の「家電」が「楽器」となって蘇生した。現代では需要のないブラウン管や役目を終えた機器が、新たな産声ともいえるサウンドを奏で、そんな楽器同士が合わさることで真新しいエンタテインメントに昇華する。その瞬間に老いも若きもが驚き、楽しんだ一夜だった。


取材・文:鳴田麻未
写真:山本マオ
映像:河合宏樹

#CULTURE

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