54人でともに暮らす。
拡張家族体「Cift」が示す、新しい家族のかたち

多くのクリエイターが集う複合施設「渋谷キャスト」。このビルの13階をベースにするコミュニティ「Cift(シフト)」では、“拡張家族”というヴィジョンを共有する人々が、現代をより豊かに生きるための可能性を模索している。住人である石山アンジュ氏、外山雄太氏に話を聞いた。

ミクロな視点から社会を捉える拡張家族

渋谷キャストのオープンとほぼ同時に運営がスタートしたCiftは、「良心を軸にした“ともに”ある生き方」を思考・実践・発信するコミュニティ。住人の一般公募はせず、発起人の藤代健介氏をはじめとする入居者のネットワークをたどって集まったメンバーが起居をともにする。

運営が始まった当初の住人は38名だったが、丸1年が経った現在、その数は54名に。共通項は、メンバーのほとんどが複数の肩書を持つクリエイターであり、多拠点生活者であること。肩書および拠点の合計数は、それぞれ100を超す。

居住室は19部屋で、1部屋にひとりで住むメンバーもいれば、複数人で暮らすメンバーもいる。それぞれの部屋に特色があり、赤ちゃんの集う部屋があれば、雀卓の設置された麻雀部屋もある。基本的にはどの部屋も開放されており、住人であれば自由に行き来できる。また、共有のリビングやキッチンも用意されている。

共有のリビングで作業するメンバー。自然と会話が生まれる
「Ciftは、“ともに働く、ともに暮らす”をコンセプトに掲げています。“拡張家族”というヴィジョンを共有した意識で繋がる家族を体現しつつ、一方では法人組織でもあり、クリエイター同士がスキルを活かして外部の企業とコラボレーションすることもあります。何をするにしても、54人がひとつの組織体であるというのが前提です」

そう語るのは、運営スタート時からのメンバーであり、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師としての顔も持つ石山アンジュ氏。石山氏は、Ciftの理念に共感して入居を決めた。1年が経過した今は、自身の内面に大きな変化を感じている。

「ここには子どもたちがいるので、私もたまにおむつを替えたり、洋服の着替えなど子育てに参加させてもらっています。そうしているうちに、『小さな母性』みたいな感覚が生まれてきて。血が繋がっていなくても、ここで暮らす家族一人ひとりの生活を“自分ごと化”するようになりました」

石山氏はこの1年を、「拡張家族の一員として、ミクロな視点から社会を捉えられるようにするための個人的な実験期間でもありました」と振り返る。そして現在は、「個人と個人が共感し合い、地球の端から端まで意識で繋がる家族になれたら、世界平和に繋がるのではないかと信じられるようになりました」とのこと。

社会を変える、あるいは平和を実現するために、社会的・構造的なアプローチとは異なる方法がある――。石山氏は、Ciftというコミュニティの可能性に確信を抱いている。

地縁血縁とは異なる“ゆるやかな繋がり”

石山氏の話に深く頷くのが、2017年10月に入居した外山雄太氏。外山氏はオープンリーゲイで、関連のサービスを展開する会社Letibee(レティビー)を運営する傍ら、グラフィックデザイナー、イラストレーターとしても活動している。
Ciftに興味を持った理由は、地縁血縁とは異なる「多様な家族のあり方について考えてみたかった。ゆるやかな家族関係を実践できる場所だと思ったから」。はたして、その予感は見事に的中した。

「ここで暮らしていると、いい意味で自分自身が揺さぶられるんです。たとえば、ゲイの僕にとって、子どもを持つという感覚は永遠に“自分ごと化”できないと思っていましたが、Ciftでは家族の子どもと触れ合う機会に恵まれています。なので、このコミュニティにいることで、自分自身とリンクする物事がどんどん増えていっている状況です。街中を歩いていても、ネットサーフィンをしていても、圧倒的に入ってくる情報や気になることがらが増えました。そういうふうに、自分が少しずつ変わってきていますね」

2人が内面の変化を感じるのと同時に、コミュニティ全体の結びつきも日を追うごとに強くなっている。毎週テーマを設けずに行う家族対話や、月に1度の家族会議といった場で何度も意思決定を共有していくうちに、家族であるという意識は一層高まっていく。また、日々の食事をともにすることで、互いをより深く知るようになる。ただし、外山氏は、特殊でユニークな家族関係が築けている理由は別にあると話す。

月に一度、定期的に開催される家族会議は、Ciftとしての意思決定をメンバーで共有して行う場
「確かにコミュニケーションを通して結びつきは強くなっているのですが、もっとも面白いと思うのは、最初に家族になるということに納得し、その意識を共有しているところだと思います。共同生活を経た上での『うちらって家族っぽいよね』という認識ではなく、最初から納得した上で家族になるからこその関係性。そこにCiftの面白さがあるように感じます」

他人のままであれば気を遣ってしまうが、家族という前提ならば付き合い方や距離感も変わる。様々な局面において、自立した個人同士が自然と与え合い、助け合う。こうしてCiftは、さらに豊かなコミュニティへと発展していく。

「先ほどアンジュちゃんが言った“世界平和”は、もしかしたら『言い過ぎじゃない?』って思う人もいるかもしれません。でも僕は、Ciftのようなミクロな関係性の中から平和が広まっていくんだろうなということを、今、強く感じています」

Ciftのベランダからは渋谷の街が臨める

安心して暮らせる環境こそが本当の豊かさ

ここで一度、「豊か」という言葉の意味について考えてみたい。石山氏は、「寂しさや不安がなく、安心して過ごせる状態が本来追い求められるべき豊かさではないでしょうか」と、言葉に熱を込める。

「都心では単身世帯、核家族世帯が過半数を占めていて、衣食住すべてを自分の力で賄わなければいけないというプレッシャーがあります。何となく孤独で不安、という思いを抱えていらっしゃる方も多いと思います。そんな社会だから、仕事・生活・精神的にも補完し合えるコミュニティが必要になってくるはずです」

自然とメンバーも集まり、賑やかな食事になることも日常茶飯事
外山氏もCiftに入居したことで「豊かさって何だろうって、改めて考えさせられました」。その後、コミュニティで暮らすが故にシャットアウトできない情報量の多さが、視野を少しずつ広げてくれることに気づき、「自分自身が豊かになっている」と実感するようになった。

個人の不安や孤独感を低減させると同時に、他者への共感能力を高めてくれるCift。石山氏は今後、Ciftのようなコミュニティを全国的に増やしていきたいという。

「現在もCiftのメンバーが全国各地に根を張っている最中です。希望としては、日本に留まらず世界中にコミュニティを増やしていきたいです。コミュニティは、言い換えれば市民活動。Ciftで行われている実験が、これから日本の若い世代が抱えている心理的な課題に対して、何か影響を与えられたらうれしいですね」

社会のほころびが目立ち始め、既存の構造が崩れようとしている現在。Ciftのような新しい“拡張家族”体が、新たなセーフティネットやインフラとして広く普及する日も、そう遠くないのかもしれない。


写真=内田 年泰、Cift提供
取材・文=吉田 勉
企画=東京ピストル

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