「山奥に“第3東京市”つくってビッグデータ取ってるんです」 “IT大国・中国”を、現地日本人CEO語る。

 中国は高度にIT化され、実は日本よりはるかに進んでいる。
日本の大手外食産業の中国法人CEOであり、在中生活14年のS氏の実感から中国の現実を紐解くシリーズ。前編では、ITとIT企業の発展でインフラ化した「ALIPAY」や「WeChatペイ」などの現状をおしらせしました。
 スマホがちゃんと充電されていて、昼食やレンタサイクルやタクシー代が払える程度の残高さえ銀行にあれば、現金なしで毎日暮らせるという。中国でほとんどの人が享受している便利な生活ぶり、うらやましいかぎり。

 後編は「中国のITがなぜそこまで発展したか、そして日本の取るべきスタンス」について、S氏、語ります。

とにかく便利だから! 大企業へ原資をプレゼント

「『ALIPAY』『WeChatペイ』の『財布』に入っているお金のすごいところは、その履歴を一切政府が関知できないという点です。しかも個人間のお金の送受金に銀行振り込みみたいな手数料が発生しないから、みんなこぞって使いますよね」

これ、前編の話題の続きだが、少しだけ補足すると・・・・・・。「ALIPAY」「WeChatペイ」などの電子決済アプリは、基本、登録者の銀行口座と連携している。だけれど、アプリ内にもお金をプールしておくことができるという仕組みがあり、一説によると5000億元を超えた。それを「ALIPAY」「WeChatペイ」を運営しているアリババとテンセントは投資に使っていると。

日本の銀行で個人間のお金をやり取りする場合、相手が同じ銀行でも手数料が108円発生する。「他行」とか「時間外」でチャージはどんどん膨らむ。「ALIPAY」や「WeChatペイ」でのやり取りならほとんど無料なのである。そりゃみんな使う。そしてアリババとテンセントに儲けるための原資をどんどんプレゼントしていることになるのだ。

「でもそんなこと関係ないんですよ。とにかく便利だから、ITリテラシーとか背景のシステムとか関係なく、みんな使いまくってるんです。かくいう僕も『日本って不便』って思うぐらいですから、完全にこのシステムの良さにハマってますよね(笑)」

なぜ中国はキャッシュレス化できたのか

「僕は中国に暮らし始めて14年めになるんですが」とS氏が語り始める。
「当時からみんな携帯電話を持っていて、インターネットも普及していました。そこにまず驚きました。それまで十分に各家庭に固定電話が普及していなかった背景もあって、その段階を一気に飛び越えて携帯電話やネットが普及したんじゃないかと思うんです」

「一昔前から今を飛び越えて一気に未来になる、リープフロッグ現象というやつですね」とS氏は言う。
「広い中国にお店が十分に行き届いていなかった分、ECが一気に流行りました。それに伴う決済システムも一斉に行き渡った。IT分野だけでなく、自動車業界でもガソリン車を海外のメーカーとの合弁会社で作り続けてる一方で、実は中国資本の『BYD』では何年も前からEVを開発していて国内でトップシェアを誇っているだけでなく、これもうすぐ世界に進出すると思います」

もう一つ驚いたのは、当時の銀聯カードの普及ぶり。

「銀聯=ユニオンペイっていうこのロゴ、日本のお店にもたくさん貼ってありますよね? 2001年に中国がWTOに加盟して、その翌年、中国銀聯が創設されました。いわば国主導のSuicaみたいなもので、これで中国全土に金融機関間の取引のルールが統一された。それで銀行でクレジットカードを作ると、ほぼもれなく中国銀聯のロゴが乗っかってデビットカードとして使えることになったんです。一応クレジットカードもあるけど、ほとんどの人がデビットを使ってます。ユーザー側の手数料がゼロだったから。そうしてデビットが普及しているところに、同じシステムの『ALIPAY』とか『WeChatペイ」が出てきたから、乗り換えがスムースにいったんじゃないかと」

別に中国の人々のITリテラシーが高いわけではないのだ。

「デジタルとかアプリとかいう概念を離れてもはや“道具”なんですよね。だから当たり前のようにおじいちゃんおばあちゃんまでもが使っている。不思議なことに、これまでセキュリティ面で何か事故が起こったというのを聞いたことがないんです。それでみんな便利だから使ってるうちに、麻痺しますよね」

いち生活者としては「使えない日本がもどかしい」と思えるほど便利で、もはや欠かせないインフラになっている。また、外食産業を営むビジネスマンとしては「POSレジは要らないし現金に触れる必要もない。毎日閉店後に銀行にお金を持っていく手間や危険性からも解放される。あと細かい話では、中国って結構偽札が横行していたんですが、そこのリスクも軽減されます」と、いいことしかない。

キャッシュレス化、日本には訪れないのか

「使いたいなあ」と思う。思いませんか?

「日本でも、ファミマとかいくつかのファストフードでも使えるようになってきています。インバウンドの人のニーズに沿ったかたちですね。でもこれはまだ『ALIPAY』とか『WeChatペイ』内部のウォレットにチャージしたお金を使ってるだけ。本来のデビット的な使い方はできていないんです。だから日本の財界もまだ何も言わないんでしょうけど、この中国で成熟したプラットフォームが日本に上陸して、日本人も使いたいっていうことになると・・・・・・」

ユーザー的にはキャッシュレスになると圧倒的に便利なのだが、そうすると何だかもう、簡単に日本経済が牛耳られそうな未来しか思い浮かばない。

「日本経済を考えると危険でしょうね(笑)。昔はこわくなかったんですよ。日本企業のほうが大きかったから。でも今は中国の方が大きいじゃないですか。世界企業の時価総額ベスト50でいうとトヨタしか入っていないでしょ。それも最新のランキングで39位とか? 中国は8〜9社入ってるんですよ。6位にアリババ・グループ・ホールディング、8位にテンセント・ホールディング」

クレジットカード社会が確立された日本に、中国の今のプラットフォームを当てはめるのは難しいとS氏は言う。
「でもできないっていうわけじゃなくて、手っ取り早いのは、中国のテンセントとかアリババが日本の銀行を1個買ったらいいんじゃないかと。で、まずは手数料全部無料にしちゃう。そうすればみんな口座つくりますよね? そういう生態系を作っておいて、このプラットフォームを投下する」

そうなるとたぶん間違いなく、その新しい銀行に口座を作るだろう。で、たぶん間違いなくスマホアプリであらゆるものを予約してあらゆる支払いをする楽さに溺れることになるだろう。

「中国って、『これいいじゃん!』ってことになると早いんですよ。そこに全力でバックアップする。普通、儲かりそうなジャンルには有象無象が出てくるんだけど、そこは共産党一党主義の強み(笑)。あっという間に、国主導で整理してしまう。体感的には1年でなんとかしますね、彼ら。そこからそれを成長軸として、海外に輸出していく」

そのものすごさの例としてS氏、貴州省の貴陽という町を挙げた。

中国・貴州省に忽然と現れた“第3東京市”、貴陽

中国の西南地区に位置する、平均標高1000 メートルほどの起伏に富んだ高原、貴州省。ここを、共産党全国大会で習近平は、代表選に出馬する「地元」として選んだという。

「中国で最も貧しい省の一つだったんですけど、この前、政府の人と話をするのに出張って行ったら、山を切り崩して何にもないところにビルがニョキニョキ建ってたんです。それはもう、エヴァンゲリオンの第3東京市みたいな光景で」

「そもそも中国には国民総背番号制みたいなシステムがあるんですが、ここではそれをベースにすべての人々の行動履歴を記録してビッグデータとして集約しようと」

ウリはなんと、気温。サーバーやスーパーコンピュータを適温に保つための空調が、貴陽では必要ないというのだ。中国では国の新しい政策の拠点として、常に地方を選びテストするという。
それで、次々と通信関連を中心とした大企業が拠点をこの街に置くようになった。まさにWeChatを運営するテンセントもこの街にデータセンターを移転。日本の NTTデータも、貴陽市と中国科学院ソフトウェア研究所と共同で、「貴陽科恩ビッグデータ先進技術研究院」を設立したことを発表している。

「何もなかった新市街地を開発し、人口は2020年には1000万人に達するといわれています。ここで人々の行動を把握し、ディープラーニングなどを活用して交通状況のリアルタイムでの可視化や、渋滞防止、大気や水資源の計測を行ったりするみたいですね。もうこの街、行くと単純に、なんじゃこりゃ! って思わせてくれます(笑)」

日本は「買い物に行く先」としてしか意識していない

ただただ驚嘆。自然のすごさとか歴史の重みとか、すごい動物の肉を喰らうとかいうレベルではなく、「ビッグデータ」みたいな、本来日本が得意にしていたジャンルまでこうした物量大作戦で凌駕されてしまう。S氏は、中国人は日本のことなんて、買い物に行く先としてしか意識していないという。

この先、われわれは何を拠り所に生きていけばいいのか。歯噛みしていたらS氏が言った。以下は彼の私見である。

「唯一日本が中国で評価されているのは『匠』。作る技術力というよりは、精神性ですね。中国では文化・伝統の多くが文革で失われてしまいました。4000年の歴史といっても、過去の精神性は受け継がれていない、というのがぼくの実感です。日本ってみんなワーカホリックで製造に生きがいを見出してきましたけど、それは中国に移り、さらにアジア各国へと去って行きました。これからはいかに日本の匠を打ち出していくか。日本の生き残る道はそっちじゃないかなと思っています。現に、ぼくが中国で展開している外食のお店も完全にそれを前面に出していっています。これは決して中国にも、よそのどの国にも真似されない部分。日本とは何かを考えることが、むしろ世界に打って出る力になるのではないかとぼくは思っています」

#CULTURE

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