「この2週間で使った現金は1500円です」 “キャッシュレス大国・中国”を、現地日本人CEO語る。

「ああ、日本ってホントめんどくさい。中国みたいになったら絶対楽なのに」
 中国は今や高度にIT化し、ほぼほぼ現金を持ち歩かなくてもスマホひとつで暮らしていける。本格的なキャッシュレス社会へと変貌しつつある。
 発言の主は30代のS氏。日本企業の現地法人設立のために上海に移り住み、今は広州でその会社のCEOを務めている。キャッシュレス社会の恩恵を受けているのは、もちろん彼だけではない。スマホが行き渡りさえすれば、地方のおばちゃんでもおじいちゃんでも誰でも!

 S氏は中国に居を構えて十数年。3カ月から半年に1回帰国するが、そのたび「めんどくさい! 暮らしづらい!」を実感するという。

 日本が中国にIT技術で遅れをとり、日常がすごく不便だ・・・・・・なんて想像つきますか?
だってワイドショー見てたら中国って、
「狭い隙間によく挟まる(挙句レスキューに周囲を切断されて救出)」
「どこかで見たキャラクターを雑にパクる」
「炊飯器と抹茶味のお菓子と化粧品を日本で爆買い」
みたいな件が、半笑いな視点で取り上げられてることが多くないですか? で、「うん、中国らしいよね」って納得したりする。確かに、そんな面はある。だけど・・・・・・。

「こうして普通の日本人が中国と日本両方で暮らしてみて、今は中国のほうが圧倒的に暮らしやすいって言っちゃってますからね」とS氏は笑っている。

それだけ中国は高度にIT化され、実は日本よりはるかに進んでいるのである。

中国のごく普通の生活者であり、財界や政府にコミットしているビジネスマンでもあるS氏の実感から浮き彫りにされるそんな“現実”を前後編2回にわたって、インタビューとともにレポートします。

さて前編は、「生活者としてのS氏のキャッシュレスな日常」。

この2週間、出張で1500円しか使ってません

「中国なら全部、これで済んじゃうんです」と、S氏は愛用のスマホを掲げる。

「先週、先々週と2週間ほど中国国内を出張していたんですが、その間使った現金は100元(約1500円)ほど。それ以外は全部電子決済です」

今年6月に日銀が出したレポート「モバイル決済の現状と課題」によると、日本人の「店頭でモバイル決済を利用している」割合は、なんと6%。同じレポートに掲載されている、中国の都市部での調査(2016年5月)では、「過去3カ月のあいだに店頭でモバイル決済を利用した」のはなんと98.3%!

日本でもキャッシュレスの決済はそこそこ浸透しているけれど、多くはSuicaとかPASMOとかのカード型電子マネーですよね?
で、それらが昨年どのくらい使われたかが、今年2月の日銀「決済動向」に出ている。プリペイド方式のICカード型電子マネーで、SuicaやPASMOなど全国5社の鉄道系カードと楽天Edy、WAON、nanacoを対象に調査したところ、決済金額が年間5兆1,436億円。これに対して中国のモバイル決済金額は、オンラインショッピングを除いて約210兆円!

そのくらい中国ではキャッシュレス化が進んでいるのだ。

ちなみに中国では「1」が4つ並ぶ「11月11日」を「独身の日」として、ネット通販で一斉にセールが行われるのだが、2017年はEC最大手のアリババが、この1日だけで2兆8000億〜9000億円の取引額を達成したという(スマホ限定ではないけれど)。伝えるメディアによって額が多少違うが、それにしても「誤差1000億」って、この数字の途方もなさを物語っている。

ある日のS氏の過ごし方

では、生活の中にどんな感じに浸透しているのか。
ちなみにこれが彼のスマホである。
中国のモバイル決済は2巨頭がしのぎを削っている。
まずは下から2段目左から2つ目のアイコン「ALIPAY」。ECを中心とした世界的IT企業の「アリババ」が運営する決済システム。そして最下段の右から2つ目のアイコン「WeChat」。中国企業「テンセント」による、簡単に言うと中国版LINEである。ここには「WeChatペイ」という決済システムが搭載されている。

「ALIPAY」も「WeChatペイ」も、ユーザーが自分の銀行口座を登録することで、口座から直接お金を払ったり、自分のスマホでお金を受け取ったりすることができる。ここ重要。あとで触れます。

ほとんどどんな業態のどんなお店でも、金額を入力して「お店に提示されたQRコードを読み取る/あるいは、自分のQRコードをお店側に提示して読み取ってもらう」だけで支払いが完了するのだ。ここもまた重要、ここもまたあとで触れます。

では実際に普段S氏がどんなふうに活用しているかというと・・・・・・。

8:00am 出社

「うちからオフィスまでは約3kmなんで、毎日自転車で出社してます。え、どんな自転車かって?」

これである。雑に並んでいて、1台ぶん投げたような状態になっているのがなんとも中国らしいけれど、これら全部、いわばS氏の愛車なのだ。
「黄色いのが『Ofo』、シルバー×赤が『モバイク』というサービスの自転車ですね。事前に登録しておいてデポジットを払えば使えます。車体にQRコードが付いているので、これをスキャンすれば解錠できて、あとは使用時間によって課金される仕組み。どこまで乗って行って、どこに乗り捨ててもOK。自転車の位置情報を検索するシステムもアプリに入っていますが、まあ大きな街だったら、だいたいこんなふうにいっぱい停まってるので。空気圧とかブレーキとか、状態のいい車体を選んで乗ってます」

この2社で運用する自転車の総数は1500万台とも言われ、「モバイク」はイギリス、シンガポール、イタリアに進出。今年8月からは札幌でもサービスを行っている。「Ofo」の方も年内日本進出を目論んでいるという。これ、単純にいいよね! とても使い勝手良さそうでうらやましい。

10:00am社内ミーティング

WeChatで遠見ごとにグループを作り、情報やプロジェクトの進捗を共有する。これは日本でもLINEで同じようなことしてる人、いますよね?

1:00pmランチ

お昼。お腹が減る。でも今日は積み残した仕事があって、外には行けない。・・・・・・なんて時には、上のスマホ画面の最上段左端「饿了么(アーラマ)」か左から2個目「美団外売(メイトワン)」のアイコンをクリック。

「『饿了么』と『美団外売』は、中国2大出前プラットフォームなんです。うちの会社の近所のお店がダーっと表示されて、選ぶと今度はメニューがバーッと出て(笑)。この時は『真功夫(ツンコンフー)』にしました。それで支払いの段階で『WeChatペイ』とか『ALIPAY』を選べば、アプリが立ち上がって支払いまで完了します」

どのビルのどの階のどの部屋の誰かまで特定されてきちんとデリバリーされるそう。
この時は「WeChatペイ」の「紅包(ホンバオ)」から31.5元が支払われている。「紅包」についてもあとで触れます。
で、これだとネットでのデリバリーをカードで支払ったのと変わらない。もっと便利なのが、実店舗での利用で・・・・・・。

8:00pm 友人と待ち合わせ

「お店に行くとこういうQRコードが最近よくあるんですよ」

「これを『WeChatペイ』とかのアプリでスキャンすると、スマホ上にメニューが出てきて、オーダーから支払いまで完了するんです」
よく見るとWi-Fiのパスワードが記されていたり、ドリンクサービスのオファーもあって至れり尽くせりなのである。

「それだけじゃなくて便利なのは、割り勘ができる点なんですよね。『ALIPAY』や『WeChatペイ』の電子決済システムでは、個人間のメッセージみたいに直接現金をやり取りできるんです。これが割り勘にめちゃくちゃ便利!(笑) 中国ってそもそも割り勘っていうカルチャーがあんまりなくて。レジで『一人ずつで』っていうのには対応してくれないし」
CEOなのだから、よくおごる。それはいい。でもCEOにも友達や先輩はいる。割り勘にしたい局面もあるのだ。

「中国の電子決済なら、個人間の送受金が簡単にできるんですよ。お店は『一人ずつ』を受けてくれないけど、5人で100元だったら、代表して支払う人にみんな20元ずつ送金すればOK。『ゴメン、10円玉ないから細かいの後で返すわ』みたいなこともありません」

11:00pm クルマで帰宅

出社時に乗った「モバイク」は会社の近所に乗り捨ててるし、ちょっと酔ったし、帰りはクルマ。
「白タク(笑)を呼ぶとアプリがあるんです。いわば中国版Uberとも言える配車サービスですね。アリババ系の『快的打车(クァイディ)』(左)とテンセント系の『滴滴出行(ディディ)』(右)。どちらも乗車地点と目的地を入力して、登録しているクルマを呼んで、家まで乗って、支払いはALIPAYかWeChatペイで。この2社、合併することが報じられたので、来年あたりにはどっちかの一強時代になるかもしれませんね」

ちなみに、地方出張の場合

“中国の田舎”というと、“ものすごい田舎”を想像しがち。きっとレジとつながったQRコードリーダーとかはないに違いない。
「そんなの全然要らないです(笑)。『ALIPAY』『WeChatペイ』のアカウントを持っている人には全員がQRコードを割り当てられています。登録してさえいれば、当然商店の側も持っている。それをプリントアウトして店頭にぶら下げておけば、設備投資完了(笑)」

こんなふうに。必要な“デバイス”はヒモとダブルクリップぐらい。で、お客の側が商品を手にとって「ALIPAY」「WeChatペイ」のアプリを立ち上げて、お店のQRコードを読み取ったら送金することができるんです。

・・・・・・と、まあ、朝起きてから帰宅するまで、あるいは地方に出張しても、S氏が現金をほぼほぼ使わないことはよくわかった。

アプリ内にある「財布」の秘密

「さっき『個人間のやり取りができる』って言いましたが、ここが実はすごい点なんです」

S氏、ランチの際に「紅包」からお金を払った。これは中国のお年玉みたいなもので、「WeChatペイ」には、人数と金額を設定して一斉にお年玉を送れるシステムが搭載されている。
基本的に「ALIPAY」「WeChatペイ」は登録者の銀行口座と紐付けられているが、それとは別にアプリ内にプールされていく「財布」にお金を貯めることもできるのだ。

「自分のアカウントに入金されたお金は、必ずしも登録している銀行口座に入れなくてもいいんです。『ALIPAY』『WeChatペイ』の中にウォレットとよばれる機能があって、やり取りしたお金はここに貯めることもできるん。Suicaのチャージ機能みたいなものですね。でもSuicaと違って、さっきの個人商店なんかは電子決済の売り上げをそのまんまここにプールしておくことができるわけです。何かの記事で読んだんですけど、『ALIPAY』『WeChatペイ』の『財布』に溜まっているお金が中国全土で5000億元を超えたとか超えないとか・・・・・・」

これをアリババやテンセントは利回りに活用しているというのだ。恐るべきビジネスモデルである。

(後編へ続く)

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