「レペゼン自分」あっこゴリラが『GRRRLISM』で伝えることとは

雀士であり作家でもある色川武大の著作に『うらおもて人生録』というものがある。劣等生やその親に向けて、彼のまっすぐとは言い難い人生で得た“コツ”を語りかけるエッセイで、柔らかい筆致ながら、書かれていることはとても深い。博打での立ち回りを生き方になぞらえて語るところなど、グッと引き込まれるし、考えながら読まされる。

“坊や哲”(『麻雀放浪記』の主人公)のモデルとなった彼の本を読むきっかけは、今回のインタビュイーが与えてくれた。あっこゴリラ。12月5日にメジャーデビューアルバム『GRRRLISM』の発売を控える30歳の女性ラッパーは、イベント、テレビ、インターネットと様々なメディアに活躍の場を広げている。彼女の名前の由来やこれまでのあれこれは他メディアでのインタビューに詳しいので、そちらを参照されたい。

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プライドは捨てても魂は売るな! あっこゴリラ インタビュー【あいつアンドクリエイションvol.01】(Qetic)

あっこゴリラとは

上記のインタビューとこちらのエッセイを読むと彼女の輪郭は掴めると思う。

「らしさ」からの自由:あっこゴリラ(VICE)

この宣言の力強さたるや!

<わたしはラッパーです。わたしは、世の中に刷り込まれた“常識”へのクエスチョンと“当たり前”を解体する考え方、それらを覆す新しい価値観をクソだと信じて踏みつけていた昔の自分に向かって叫ぶと決めました。今のわたしは好きなファッション、メイクを楽しんでいる。「女性に年齢を聞くのは失礼ですかね?」と聞かれたら、「歳をとることは恥じゃないっすよ」と答えるし、「子どもを産んだほうが幸せになれるんじゃない?」と言われたら、「自分の幸せは自分で決めるんで!」と答えている。>

『GRRRLISM』で表現すること

――12月5日に発売する新しいアルバムタイトル『GRRRLISM』について教えてください。

本来のスペルのGIRLISM、所謂"女の子らしさ"を超えようというメッセージ、 GRRRLISMのスペルは1990年代初頭にアメリカで起こった「Riot Grrrl」というムーブメントのオマージュ、あと動物が唸ってるイメージもあります。

――以前の作品に比べて様々な表現が増えた一方で、一本筋が通ったまとまりも強く感じました。

今回はアルバムを作る、ということを大事に考えていました。色々な意味を内包する“GRRRLISM”という軸があり、そのそれぞれの側面を掘っていくように進めました。アルバム3枚分くらいあった素材を、最初に作った骨組みに当てはめていくような感覚で、「余裕」はここ、「ウルトラジェンダーはここ」みたいな感じでやりました。

――1曲目から最後まで流れが気持ちよかったです。

かなり気を遣って作ったのでそう感じてもらえると嬉しいですね!

――余分な力が抜けて力んでいない印象もありました。

自覚はありますね。確かに力はちょっと抜けました。前まではエネルギーがあるけど、どこに投げたらいいか分からない状態で無鉄砲に放出していたのが、今回は狙って投げている感じがあります。あと川の近くに引っ越してピリピリ感が減りました。川の力ですね(笑)。

――歌詞も聴きやすかったです。

それも録音の時に相当気をつけました。

――新しいアルバムでもポジティブなパワーを強く感じましたが、ちょっと異なるクリエイションのお話も聞かせてください。i-Dのエッセイ、本当に素晴らしかったです。そのままステージで読み上げてほしい、強烈なアジテーションでした。

ありがとうございます。昔はよく文章を書いていたのですが、i-Dをきっかけにまた書く機会が増えてきて嬉しいです。

――しかしどうやってそれだけのポジティブの境地に達したんですか? 昔からそうですか?

違います。昔は自己否定の極みでした。もともとやりたいこと、昔はドラムがそうで、これしかないと思ってやっていたのですが、バンドで叩き始めて早い段階で「あ、才能無いね」って言われちゃって。

もっと広い視野を持っていれば違ったと思うのですが、当時は学校のクラスみたいな雰囲気になってしまっていたので、みんなに否定されることで自分のドラムに自信が持てなくなってしまったんです。でも周りの人には評価されたくて、どうしたら役に立てるのかってずっと考えていて……。

「そのために何でもする」ってくらいの心境でやりたいことをやっているはずが、ボタンを掛け違えちゃったんです。

今は「記号を乗り越えていこう」というメッセージを言っているのですが、当時は逆に誰かのために必要な記号になりたかった。それがいきすぎちゃって、人から褒められないと自分のことが好きになれなくなってしまった。それが溜まりに溜まってラップを始めたんです。

やりたいことしかやりたくない一方で、八方美人なところもあり、すごく相反してる、「ザ・人間」て感じでしたね。

――乗り越えた今、戻ってしまう怖さはありますか?

ブレないでいるコツを聞かれたりするんですけど、心の強さや根性論ではなくて、解体して己を捉えることです。どうして気分が落ちたのか、自己否定をしていたのか。当時の環境を思い出しながら因果関係を考えると、すごく単純な要因だったこともいっぱいある。

そういう歪みで世の中に色々なことが起きていることが見て取れて、昔の自分を見ているようで他人事にはならないんです。だからこそ、昔の自分も含めて、世の中に対して表現をしていきたいなと思うんです。

――他人からの目線を自分の判断軸にしていた、自分がどう変わったのか?

昔は自分が大嫌いで、変わりたい願望がすごかったんです。すぐブレるから、自分のことを木に縛り付けたかった(笑)。

だから私の作品は「強くなりたい」って気持ちにフォーカスして作ってきたんです。今でも制作中やステージの前はどうしようと迷走してしまうことがたまにある。そんな時は、自分が好きな自分、本気で届けたいこと、届けたい人のことをイメージします。

他者との距離感

――Z Tokyoはコミュニティをテーマに記事を作ってきました。旧来の閉塞感や新しいコミュニティに注目してきました。人と人との関係性を含めて、新しいコミュニティを作ってきた人たちにインタビューをしてきました。居酒屋ガツンさんなんかは特に面白かった。

おー、いまっぽいですね。

――これまでは「自分」にフォーカスを当ててお話を伺ってきましたが、ここから「他者との距離感」について聞かせてください。昔に比べて、そこが変わってきている実感はありますか?

SNSがこれだけ普及したことでひとりひとりの距離感は近くなった気がしますね。声なき者も声をあげやすい時代だから、物事が隠蔽できなくなってきてるし、嘘は見破れる。対等に力をもてる感じが良いなと。その一方で、誰かの浮気とかに当事者でもないのに常識という名の正義感でハイエナみたいに群がって対象を叩く行為は、まじでよくわからない。

全員が当事者なのに、当事者意識がないんだろうなと。それに萎縮して好きなこと言えなくなったり。そのへんは歪みですよね。

これはGRRRLISMだと思っているのですが、他者が違うのは当たり前、私は私で、お前はお前。全員バラバラで、それこそが最高。合わせる必要などないし、どうしてもぶつかる人とは無理してつるまなきゃ良いと思います。

――つるむのは好きじゃない?

もともと苦手だったんですけど、最近は友達が増えてきました(笑)。こんなに友達が多いのは人生で初めてです。

――楽曲のテーマでお兄さんやおばあさんが出てきますが、ご家族から作品に受ける影響はいかがですか?

実は一番影響が大きいのは母なんです。とにかく母がすごくて。秋田の村出身で、何かはみでることをやると石を投げられる、って話をされて。ていうか、石無いし、コンクリートだし、みたいな(笑)。考え方がガチガチに閉鎖的で、学校行きなさい、勉強しなさいって。お兄ちゃんが盲腸でお腹痛がってる時もですよ! 結局お兄ちゃん盲腸破裂して病院行くことになって、お兄ちゃんは今でもそれを恨んでいます。笑

でもね、それが全部どうでもよくなっちゃう出来事(以下若干物騒なので割愛)があって……。

一番はじめに家族という閉鎖的なコミュニティを経験して、お母さんも他人という感覚になりました。

だから万引き家族はめっちゃいい映画だなと。「血縁=家族」なんだけど、結局は他人みたいな。そうなって逆に、母との関係も良くなりました。

だからこれも私の中のGRRRISMなんですけど、レペゼンは自分。基本みんな圧倒的に他人。だからこそ血縁はなくても家族になったり、自分で人間関係をチョイスできると思っています。

インスピレーションの源

――ちょっと話題を変えて……、普段の自分へのインプットってどうされていますか?作品を作る上でのインスピレーションをどこから得ているのでしょうか。

やっぱり大きな影響を受けるのは、音楽、映画、本ですね。アートとカルチャーがいろんな世界の捉え方を教えてくれる。本は本屋に行って買います。最近は西原理恵子さんのエッセイが面白かった。

――最近「サカナとヤクザ」が面白かったです。

(マネージャーさんたちと一通り物騒な話で盛り上がり)やっぱり裏社会モノって学ぶところが多いですね(笑)。基本みんな超他人ってさっき言いましたけど、血縁じゃない家族になるみたいなのも面白い。自分でジャッジしてチョイスして家族を作っていくような感覚。

お金も見た目も執着しない

――例えば脇毛や目の下のクマを全然気にしないしむしろかわいい、という発信をされていますが、こう思い始めたのは最近のことなんですか?

クマは今でも全然気にしています! こないだ、たまたまメイクさんが「クマかわいい!」と言ってきて、「えええええ」って(笑)。

それでその人がクマを生かしためっちゃオシャレなメイクをしてくれて。こんな風に周りの人が壊してくれることもあるのが楽しくて。「かわいい」がびっくりするくらい決められてるじゃないですか。理想の体重とか、目の大きさとか。日本は特にガチガチだと思うんですけど、そこからはみ出てるもので「あーかわいいな」って教えてくれることにすごく感動するんですよね。

――この人かっこいい、とかこのブランドやショップかわいい、ってあるんですか?

私名前とか全然覚えられなくて(笑)。参考にっていうのはあんまりなくて。最近は90年代のギャルのバイブス。ポスカとかでメイクしちゃう感じにGRRRLISMを感じてて、「今の若者は!」とか言われても「関係無いし」って言っちゃう感じとか、マツキヨのテスターでメイクしちゃったりとか。そんなバイブスを常に持っていたいなと感じてるんですけど、最近のX-girlさんがすごいギャルいって噂を聞いて(笑)。そこからはまって、衣装提供いただいたりしています。他にも、ノリで109行ってみて楽しかったり。

――自分でブランドをやりたかったりしますか?

やりたいですね。ラフに最近みんながやっているみたいに、Tシャツとかグッズとかやってみたいです。

――お金とか成功に対してどんなイメージを持っていますか?

私はもともとすごく上昇志向が強いんです。本当に負けず嫌いで、小さい頃はオセロを泣きながら勝つまでやってた(笑)。最近思うのが、前の私も上昇志向が強かったのですが、あの時の価値観だと、どんなに売れても、どんなに稼いでも一生成功した気になれない。どんなにいい状態でも必ず何か穴を探しちゃう。

でも最近はちょっと考えが変わって。常識のようになっていることに「ひっくり返したい」「根付かせたい」「揺るがしたい」みたいなのが強くなってきました。

あとお金を稼いだら一晩で使っちゃいたい。

――昭和っぽいですね。

確かに昭和! 私の友達誰も貯金していない(笑)。

お金に対してそんなに執着がなくなってきて。なんとかなるだろうなあって。興味が無いわけじゃないけど、執着しない。でもおごってはほしい(笑)。金を稼いだら使いたい。私と買い物行くと超楽しいっすよ。超使います。借りてでも買う。それが楽しい。お金使っているの見ると気持ちいいし、ストレス解消になりますよね。

――最後に、今後の展望、2019年の動きについて教えてください。

GRRRLISMを本気で届けたいので、日本の隅々まで回ってライブしたいと思っています。海外も行きたい。あ、英語喋れるようになりたい、これ目標にします。でも勉強は嫌なのでNetflixと音楽からにします(笑)。

自分の未来を想像するといつも思い浮かぶのがバックパッカーなんですけど、そうなる前に英語を喋れるようになりたい。こないだドイツで映像作っている同世代の子たちとコンタクトして、友達がGRRRLISMの考え方を英語に訳してくれたら、私たちもそう思っているって賛同してくれて。

でもそんな時にも通訳を介するのが面倒だなって。私一人ではそんなに大きなことができないかもしれないけど、同時代を生きていて、同じようなことを思っている世界中の人たちと一緒にものをつくりたいですね。


■リリース情報
あっこゴリラ
アルバム『GRRRLISM』
12月5日(水)発売
初回生産限定盤(CD+DVD)¥4,000
通常盤(CD)¥2,800

■ライブ情報
『あっこゴリラ「GRRRLISM」RELEASE PARTY』
2018年12月9日(日)at 渋谷WWWX
出演:あっこゴリラ & BNNZ


写真=田中 利幸
取材・文=小野村 嘉人

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